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2025.02.18 13:30

Forbes JAPAN Web編集長が注目する 2025年を知るための5つのキーワード

イラストレーション=ジョン・デヴィル

イラストレーション=ジョン・デヴィル

Forbes JAPAN Web編集長の谷本有香が、「2025年に気になる」5つのキーワードについて、識者たちにインタビューした。


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朱 喜哲|哲学者、大阪大学准教授

AIへの人間性の介在「哲学」が羅針盤に

昭和の元号で言えば100年を迎えるという2025年。考えてみれば、経済的に数十年を失い続けた我々日本人に足りなかったのは、この強烈な印象でいまだ私たちを縛り付ける「昭和」からの解放だったのかもしれない。

その「昭和」の呪縛から解放されるためには、何が必要なのだろうか。25年から始まる激動の「新たなルネサンス時代」という未来の扉を開くべく、研究者、経営者、美術家など各領域の第一人者である5人にインタビュー。そこから見えた、5つの「キーワード(暗号)」を皆さまにお届けしたい。

「哲学って『しぼりかす』みたいなものなんです」

そう表現するのは、大阪大学で招へい准教授として活動している哲学者の朱喜哲(チュ・ヒチョル)だ。

いわく、古代ギリシャにおいては、アートも音楽も自然科学も、あらゆる分野が哲学であった。そのなかから数学、心理学、社会学と、ひとつひとつの学問が分野として独立していった。そして理論化できなかったり、見解の一致を得ることがなかったりして、知的な営みとして残ったのが「哲学」だという。

今、海外を中心に経営のボードメンバーのなかに哲学者を入れるという動きが盛んに出てきている。複雑化する時代のなかで、これまでのように経営やビジネスに携わってきた人間のみではソリューションに至ることが難しい課題が山積しているからだ。

人々がソリューションのための探求の「よすが」として期待しているのが、ギリシア語で「知的探求を愛すること」という意をもつ哲学という学問だというのは大変興味深い。

これまで哲学は、人間が生きるうえでの理想の状態である「真善美」を究明するための手段とされてきた。しかし、数千年の歴史を振り返っても、哲学の中心命題とされてきたその「真善美」はそもそも発見できる営みでも、証明できるタイプのものでもないことがわかる。

「『人生』を含めた解きようもない問題を、『いかに答えを出すか』ではなく『どのように“問い”を良きものにするか』 『それらをどうやって味わうことができるか』を考え続ける学問、それが哲学なのではないでしょうか。哲学とは、『理論』ではなく考え方や道筋である『理路』をつくるものなんです」

今、ビジネスの世界において求められる解もまた、かつてのような方程式のように導かれるものではない。経営者たちも、物事のことわりや筋道、条理にこそ、解に近づくヒントが含まれていると感じているのではないか。

解なき世界、道なき道を歩むうえで、私たちには羅針盤や、判断するための基準が必要だ。その役割を担ってくれるであろう「哲学」を我々はどうとらえ、活用すればよいのか。朱の答えはこうだ。

「哲学は、転ばぬ先の杖。かつ、背中を押してくれるもの」

「真善美」のように正しさや善きことでいえば、現代はガバナンスやコンプライアンス、サステナビリティと、これまで以上に「正しさ」が求められている。そんななかで正しさをデータを使って合理的に判断するなら、AIに任せておけばよいだろう。しかし、正しさの均一化は人々を逆に不審にさせる。「だからなのか、哲学の分野と、人工知能やコンピュータサイエンスなどのかけ合わせが進んでいるんです。生成AIが出したアウトプットとインプットとの因果関係がブラックボックス化するなか、説明する体系そのものである“理路”をつくるにあたって、哲学がそれを補っている。それによってアカウンタビリティ(説明責任)を果たせるからです」

こうした哲学のもつアカウンタビリティを人間がうまく使いこなす方法はあるのだろうか。

「人間が何かを判断するときの判断基準は、非合理、パッション、ライフストーリーなどに依拠します。大事にしている価値を表現するのは、ロジックではなくナラティブなんです」

だからこそ哲学を取り入れることで、N=1の人間が織りなす営みや、人格、身体性をにじみ出させる。哲学を携える時代は、AI時代の人間の関与を示す「ヒューマン・イン・ザ・ループ人間参加型」のように、人間性の介在によってより良く生きてくるのではないか。
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編集=谷本有香 イラストレーション=ジョン・デヴィル

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