アート

2025.02.04 16:15

アートに学ぶAI時代の差別化。サイト・スペシフィックで新しい価値を生む方法

マ・ヤンソン作「Tunnel of Light」(著者撮影)。「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」で発表された。

同社は人間の尊厳や社会全体の幸福を重んじる「人間主義的資本主義」を経営理念に掲げ、事業の発展とともにかつては衰退していた村の復興も成し遂げてきました。
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具体的には、ソロメオ村や近郊の住民を数多く雇い入れ、300以上の地域工房と協業して雇用を創出。アルティジャーノと呼ばれる職人の「技」や「思想」を重んじ、ブランドの要として守ったほか、イタリアの国家契約規定を上回る水準(最大40%プラス)の給与を支払うなど、地域に経済的・精神的な豊かさをもたらしてきました。

得た利益の一部は地域に還元され、村の教会や街道などの整備に使われているほか、職人技術学校や劇場、図書館を含む複合施設アートフォーラムの設立にも役立てられています。

利益の追求だけでなく地域の人間の「営み」とともに歩み、場所がもつコンテクストを深く理解して守り、最大限に生かしたものづくりを行うこと。それを持続可能なブランドのストーリーとして伝えていくこと。ブルネロ クチネリはそうして世界有数の高級ブランドへと成長を遂げたのです。

LVMHも注目。日本発グローバルブランドの可能性

日本でも全国各地に場所のコンテクストが存在しますが、残念ながら企業はビジネスに上手く活用できていません。日本初のグローバルなプレミアムブランドが少なく、価格設定も実際の商品価値より低く設定されているケースが目立ちます。
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そのなかで、「金子眼鏡」はひとつの成功事例だと言えるでしょう。本拠地を置く福井県鯖江市は世界有数の眼鏡の産地として知られ、100年以上の歴史があります。ところが多くの発注元が効率化を求めてアジアを中心とする海外へと生産拠点を移していくことから、眼鏡産業の規模縮小を余儀なくされてきました。

1980年代の大手ライセンスブランド全盛期には、多くの眼鏡メーカーが有名ブランドにライセンス料を支払い、眼鏡にブランド名を刻んで販売していました。しかし「金子眼鏡」はその個性のないデザインや販売方法に疑問を感じたことなどから、1987年、他社に先駆けてオリジナルブランドを立ち上げて海外に進出。

伝統を受け継ぎ、すべての工程を鯖江の職人による手作業で行う「技」、それを追求してきた職人たちの「思想」を込めた、「泰八郎謹製」や「井戸多美男作」などの「職人シリーズ」は、メイドインジャパンの高い品質で世界から絶大な人気を得ています。

また、同社は地域の文化や技術の継承にも注力し、年々弱体化していく鯖江のフレーム製造技術を守るべく、2006年にプラスチックフレームの自社工場を設立し、2016年にはメタルフレーム製造工場を事業継承。この取り組みは人の「営み」も含めて地域を支え、地域社会との深い結びつきを形成しました。

同社製品の平均価格帯は約7万円を超えますが、好調な売れ行きを誇り、2024年1月期の同社売上は86億円で前年同期比130%の成長を遂げています。

他にもLVMHモエヘネシー・ルイヴィトンは2022年末、優れた伝統的サボワールフェール(匠の技)の継承と発展に取り組む「LVMHメティエダール」の日本における活動拠点を設立。京都の西陣織老舗の細尾や、岡山県にあるデニム生地メーカー クロキとパートナーシップを締結しています。これは日本各地の場所がもつコンテクストが、世界で独自の価値として評価されていることを意味します。

アートがかつて「ホワイトキューブ」の限界を超え、進化してきたように、日本企業もまた全国各地に眠る場所のコンテクストを引き出して最大限に生かし、世界で通用する新たなブランド価値を創造することを期待したいところです。

文=平岡美由紀

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