トランプ2.0の政策が実行されれば、さらに利上げ方向に転換される可能性も出てきた。政策金利の引き下げ鈍化、あるいは引上げへの転換はドル高を招き、貿易・経常収支の赤字につながる。スタグフレーションと財政赤字の増大、そして貿易・経常収支の赤字が起きれば、これは、1980年代のレーガン政権の元での、「双子の赤字」と似た現象となる。トランプ2.0が嫌う貿易赤字が拡大することになる。しかし、1980年代のように自国の政策ではなく、貿易相手国の政策を非難することになるだろう。当時は、主要国の為替政策の協調という名のもとで、ドル安(円高、欧州通貨高)をおこす「プラザ合意」に至った。21世紀のプラザ合意がトランプ2.0のもとでも起きるだろうか。
中国の対抗措置は対米報復関税にとどまらない。アメリカ以外の輸出先を開拓すべく、西側諸国、グローバルサウスの国々に対して、微笑み外交、輸出・投資攻勢をかけることは確実だ。すでにインドをはじめとするグローバルサウスの国は、西側の対ロ経済制裁により、ロシアから(欧州に輸出できなくなった)原油・ガスを安価に輸入できるようになった。同じようなことが、アメリカの対中高関税により、中国との関係で起きる。アメリカは対中包囲網を築くつもりかもしれないが、いつの間にかアメリカが孤立してしまう可能性は高い。それを避けるには、トランプ2.0でも、同盟国やグローバルサウスとの関係維持を考えるべきだ。(2024年12月26日記)
伊藤隆敏◎コロンビア大学教授。一橋大学経済学部卒業、ハーバード大学経済学博士(Ph.D.取得)。1991年一橋大学教授、2002〜14年東京大学教授。近著に、『Managing Currency Risk』(共著、2019年度・第62回日経・経済図書文化賞受賞)、『The Japanese Economy』(2nd Edition、共著)。24年春、瑞宝中綬章を受章。