トランプ氏のシャツは白のスプレッドカラーで、袖口はフレンチカフ仕様だった。フレンチカフは、フォーマルな場において格式を示すための象徴的なディテールであり、大統領就任式という国家の儀式にふさわしい選択であり、装い全体を洗練されたものに仕上げていた。
また、ジャケットの丈が「やや長めである」という指摘も見られたが、これは単なるサイズミスではなく、彼流のスタイルだ。スーツの上着前ボタンを全開にし、動いた時に上着が適度にたなびく様で「アクティブな印象」を演出するものであり、それに適したスーツの仕立てが施されていると考えられる。それが証拠に、彼のスーツには丈以外にサイズもシルエットもあっていない部分は見つからない。
なぜ「完全な紫」を避けたのか
そして、最も象徴的なポイントがネクタイである。
Getty Images彼が身につけていたのは、前述の通り「濃紺の地に赤の織り模様」のタイだったが、一部のメディアはこれを「紫のタイ」として報じたり、「遠目に紫」としており、そこに込められたメッセージを「共和党と民主党が共に合わさった色」と解釈されていた。アメリカの政治的な場において紫という色は、共和党の赤と民主党の青を混ぜ合わせたものとして、「統一」や「協力」を象徴し、党派を超えた協力を目指す姿勢を視覚的に伝える使われ方をする。
そんな単純で楽観的なメッセージであれば、いつも彼が身につけている赤のタイと同様に、紫を強調できる艶有りタイを選べば良い。トランプ氏の特徴は、メッセージの「わかりやすさ」という点にある。わかりやすく覚えやすいものを何度も視覚的に刷り込み、わかりやすい言葉を何度も繰り返し聴覚に刷り込む。その象徴のひとつが、いつもの赤のタイなのだ。
しかし、今回のタイはそれとは違っていた。あえて「完全な紫」を避け、赤と青の小さすぎない粒子を織り交ぜたデザインを採用したことは、彼の思想を如実に表しているだろう。
遠目には紫に見えるが、近づいて見ると赤と青が分離しているというデザインは、共和党(赤)と民主党(青)の色を並存させつつも「それらの融和は不可能である」という現実を示す。ジル・バイデン夫人が着用した純粋な紫色の装いが「融和と希望」を象徴しているとすれば、トランプ氏のタイは、そのような単純な解釈を拒絶し、「融和しない現実」を突きつける姿勢を示しているように見える。挑発的な意図の読み取れる、強烈な政治的なメッセージだ。
また、タイの質感についても注目すべき点がある。織り柄であることから、光沢感が非常に控えめ。落ち着きがあると言えば言葉は良いが、そのトーンの深さが威厳というよりも潜んだ怖さを感じさせた。常に大声で騒ぎ立てる人が沈黙した時のような感じだ。


