4つの視点から考えるイノベーション
続いて、「本当に世界を変えていくために何が必要なのか」という議論のために、ファシリテーターから4つの視点が提示された。1つ目が技術(ものづくりの精度を高めていくこと)、2つ目がインフラや法律整備、3つ目が一緒に働く仲間、4つ目が社会変化、である。まず、一つ目の「技術」視点について、田島はこう述べる。
「EVERSTEELを立ち上げた当初は自分のやりたい技術開発を一網打尽にやってたんです。でも、ある程度事業が形になってきて投資家が入ってくださる段階になると、リスクが高い技術開発にはなかなか取り組めなくなりました。大学の研究で自由に時間が使えていたころが、一番完成度が高かったっていうのはありますね。今は製品の価値や投資の意図を説明しなくてはいけないので」

「私の場合は、冒険意識があるからこそ“海”の技術が好きになったんですが、それは逆にいうと非常に困難な道であるということ。陸上で使える製品も海だと波風や潮で使えないとか、当たり前にできることもできなくなります。そういったことが今目の前にある技術的な課題ですね」
イノベーションを創出するためには、技術だけでなく先の2〜3の視点が必要だ。脱炭素に取り組む田島は、法整備には期待している。
「法整備は、脱炭素軸だとすごく重要です。脱炭素を実現しながら利益を出すのがベストではありますが、特にスタートアップは研究・開発費がかかるため商材の価格が高くなる。脱炭素の推進を社会全体が支える土台ができれば、我々も助かります」
これには野城も「水産業もそうです」と同意する。ルールの整備に加えて、顧客となり得る人たちや地域住民の理解も必要だという。
「例えば船の自動運転機能。技術的に問題ないことが実証できていても、やっぱり漁業さんやそこで生活されている方は不安という感じで。安全に運行している船でも、人が横に乗ってついて行っているようです」

4つ目の視点「社会変化」ともつながる話だ。ステークホルダーの理解を促進させ社会変化を促すために、2人はどのような取り組みをしているのか。
「とにかく仲良くなるしかないですよね。現地に行っていろいろ教えてもらいつつ食らいついて行くみたいな形で今はやっています」(野城)
「鉄鋼業はかなり職人気質なので、『AI』『DX』『スタートアップ』とか言ってもあんまり受け入れてくれない。結局は飲み会に行くことが、営業につながります」(田島)
それぞれ「現場」を大事にしているという、両社の共通点がうかがえた。
以上の4つの視点は、すべてがともに整いはじめてこそ、世界は変わっていく。技術開発のみならず、法やルールの整備、ステークホルダーや地域住民の理解、社会変化が重要であり、それらを担う政府を含めた多様な主体の連携が重要だ。
2人は最後に、「人生をかける領域をつくってくれたら」「いろいろ見てみて、その中で自分が一番いいなと思ったところを選んで」と学生たちに呼びかけた。