エコシステム

2025.01.31 14:15

UCバークレー発人気イノベーション講座の講師から学ぶ、シリコンバレー・エコシステムの今

Sheila Fitzgerald / Shutterstock.com

吉川:今シリコンバレーで最も注目している動きはなんですか?
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Jon:シリコンバレーで今最もエキサイティングなイノベーションは、「アトム(物理)」と「ビット(ソフトウェア)」が交差する領域です。ちょっと前だったら、ソフトウェアとインターネットのスピードでスケールしやすいビジネスが流行っていましたが、現在、大きなインパクトのあるイノベーションを起こそうとしたらソフトウェアだけでは完結しないものが多いです。モビリティ然り、AI然り。大規模言語モデル(LLM)とGPUの融合に見られるように、上位のレイヤーと下位のレイヤーがうまく結合する必要があります。だからこそ、さまざまな幅広い領域の技術開発が行われてきたシリコンバレーは大きな地の利があると思います。

吉川:中長期的に見てシリコンバレーは今後も繁栄し続けると思いますか? 懸念点はありますか?

Jon:いちばん懸念しているのは、シリコンバレーの生活コストの異様な高さが、若い優秀な人材を流出させてしまっていることです。その背景の一つとして、カリフォルニア州で1978年に制定された「Proposition 13」という固定資産税を抑制する法律があります。これが長い年月の間に徐々に不動産市場の流動性を妨げ、直近の不動産価格高騰の一因になっています。他の州では、固定資産税は市場価格に基づくことが多いので、「市場の原理」が働き、市場の硬直化のこのような問題は起きにくいです。そのため、若い才能がより良い生活環境を求めてシリコンバレーから流出する傾向が出てきており、同様に、優秀な人材の流入を妨げています。シリコンバレーの強みはそもそも優秀な人材の集積が基盤となっているので、この状況が続くとシリコンバレーの脆弱化につながる可能性があります。多くのイノベーションを作り出す地域として継続するのに最も大切なのは、優秀な人材の誘致とリテンションです。
 
Jon Metzler氏が教鞭を取る「事業機会の探索:シリコンバレーのテクノロジーと起業」は24年以上も続く人気講座だ  Courtesy of the Author

Jon Metzler氏はUCバークレーでイノベーションやストラテジーの講座を長年担当している Courtesy of the Author

吉川:確かにそれは私もシリコンバレーに住んでいて日々実感します。
最後に、日本とシリコンバレーがよりコラボレーションをしていくには何が必要だと思いますか?
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Jon:そもそもシリコンバレーは小さな「村」のようなコミュニティですが、一般的には外部の人に対してフレンドリーです。出張で訪問してシリコンバレーの雰囲気を味わうことは簡単です。しかし、真のコラボレーションを実現するためには、コミュニティに貢献し、コミュニティのメンバーとして行動する「当事者意識」が重要だと思います。日本の大企業は多くの事業を手がけているので、シリコンバレーに貢献できることはたくさんあるはずです。自社の事業について深く理解したうえで、何を相手に貢献できるかというマインドセットを常にもち、それを効果的に伝えることで、より多くのコラボレーションの機会を得られると思います。

吉川:そうですね、一時期「シリコンバレー詣で」と揶揄されることもありましたが、次につなげていくためには、コミュニティの一員としてのマインドセットが重要ですね。

Jon:日本の企業は貢献できるものを多くもっています。だからこそ、今後より多くの日本企業がシリコンバレー・コミュニティの当事者として現地企業とコラボレーションしていくことを望んでいます。

文 = 吉川絵美

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