その急成長を支える施策や、TVerとテレビのこれからについて、株式会社TVerでサービス事業本部長を務める薄井大郎に聞いた。
――TVerの認知度は73%を超え、2024年12月には過去最高の再生回数を記録しました。急成長のきっかけとなった、ターニングポイントはどこにあったと考えていますか。
2020年7月に「株式会社TVer」に社名変更したタイミングが、一つの転換点だったと思います。在京民放5社に対する第三者割当増資を実施し、放送局とより密接に事業を進められるよう、新体制の下で再スタートした時期です。
以降、ドラマだけでなく、アニメやバラエティなど配信コンテンツのジャンルを拡げたり、放送局側で「この番組をもう一度見たい方はTVerで」と繰り返し告知したりするなど、さまざまな施策を積み重ねていきました。そのため、特定の施策が急成長を促したというより、それぞれが徐々に成果を上げたことで、今があるという認識です。

TVerの価値は、民放各局のコンテンツを1カ所に集められることにあります。「サウナ」や「キャンプ」などの切り口で各局のコンテンツをまとめられるのも、TVerならではの取り組みでしょう。
各局のコンテンツを特集の形で掘り起こすことは、放送局にも視聴者にも価値のあることだと思いますし、クライアントにもテレビとは違う価値を感じていただけると考えています。
――地方ローカルの番組を全国で視聴できるのも、TVerの大きな特徴のひとつです。放送局や視聴者からは、どのような反応がありますか?
例えば、「探偵!ナイトスクープ」といった関西地区の番組が他の地域の方の目に触れやすくなったという声もある一方、民放の系列局が少ない地域でのTVerの利用率が高いというデータがあります。地方では映らない東京キー局の番組を、TVerで視聴するニーズがあるようです。
また、「TVerでしか見られない」という価値をもっと生かせればと、最近では「全国55局とっておき“街ネタ”特集」という企画を始めました。各地の情報番組が取材した素材から、「ラーメン」や「ぶらり旅」などをジャンルごとに集めた特集です。地方局には、まだまだ知られざる面白いコンテンツが多くありますので、視聴者との新しい出会いを作れたらと画策しているところです。
――系列局や地方局の垣根を越えた、フラットな場がTVerに生まれているわけですね。
現在は有料の配信サービスも盛んですが、日本は昔から無料でテレビを視聴できる環境が続いてきました。無料放送だからこそ「翌日に学校や会社で話題になる」といったことも起きやすい。TVerも完全無料ですし、さまざまな垣根をフラットにすることで、いわゆる「エンタメ格差」の解消にも貢献できればと考えています。
災害時、テレビと同じ感覚でTVerも見られることに気づいた
――昨年10月からは、ニュースを24時間ライブ配信されています。ニュースを扱うようになった背景について聞かせてください。昨年1月に発生した能登半島地震が、きっかけの一つです。各放送局がTVerのリアルタイム配信の枠で緊急報道特番を流し、多くのアクセスがありました。昨年は世界的なスポーツイベントもありましたが、1年間を通じてリアルタイム配信の再生数が最も多かったのは、この1月1日だったのです。
災害や事件が起きたとき、テレビをつけるのと同じような感覚でTVerも視聴されていることに、我々も初めて気がつきました。以前からニュースを扱いたい思いもあり、そうした需要が一定数あるならと始めた形です。放送局側にも協力してもらい、現在は「24時間ニュース」と同じページに、経済や社会などの解説コンテンツも並べています。
ただ、TVerが情報インフラとして機能できるようになるには、まだ時間が必要であるという認識です。私はTBS時代に報道局の社会部に在籍し、災害取材などをしていたこともありましたが、TVerはそのような取材機能を持っていないことはもちろん、有事対応に向けた体制面などの強化が必要です。そのため、情報インフラという打ち出し方はまだ課題があると感じます。速報性のある情報をTVer内でどう扱うかなど、コンテンツの方向性について、さらに検討を進めているところです。

――話題になったドラマやバラエティをピンポイントで見る「目的視聴」に対し、ニュースは「習慣視聴」に近いものだと思います。見られ方の違いについては、どう意識されていますか。
いかに多くのユーザーに習慣的に視聴してもらえるかは、今の私たちの最大の課題です。月間ユーザー数が4000万を突破した一方、調査の結果、「利用頻度は年に1回程度」といったユーザーもかなりいらっしゃいますので、伸びしろは十分にあると考えています。
コンテンツ面では、やはりニュースは習慣視聴につながるものですし、年間を通じて放送されるバラエティを強く打ち出すという方向もあるでしょう。さらに来訪者を増やすために、開発サイドによるUI/UXの改善や、プッシュ通知などのCRM施策にも注力しています。前例のない事業ですので、「挑戦してみるしかない」というマインドで、さまざまな側面から複合的に取り組んでいます。
――習慣視聴には、視聴するデバイスも重要な役割を果たすのではと思います。TVerはどのようなデバイスでよく視聴されているのでしょうか。
利用デバイスの割合は、スマートフォンやタブレットが54%、テレビが36%、パソコンが10%です。近年特に伸びているのが、インターネットと接続できるテレビ、いわゆる「コネクテッドTV(CTV)」です。
テレビの買い替えによって、CTVはさらに普及するでしょう。コンテンツ自体も、もともとテレビ向けに作られたものですから、非常に相性がいい。この先もCTVでの視聴はさらに伸びると考え、リモコンにTVerのボタンを設置していただくなど、メーカー各社との折衝にも力を入れています。
地上波とTVerを合わせた「新しいテレビ」
――CTVでTVerが習慣的に視聴されれば、テレビ画面を占有する時間も増えます。放送局との棲み分けはどのように考えていますか。地上波とTVerは「テレビ対ネット」という文脈で語られがちですが、私としては2つを合わせた「新しいテレビ」という概念で捉えています。
私自身、出向前は編成局に所属していたのですが、TVerは「番組を見てもらうための“出し先”の一つ」という意識でした。地上波とTVerの双方でトータルのリーチが広がればと考えていましたし、それは今も変わっていません。
テレビコンテンツは、クオリティーが高いだけでなく、公序良俗に反しない安全性も兼ね備えています。親子で見られる安心安全な内容は、広告主にとっても非常に価値のあるものです。そうしたコンテンツを地上波で届けるのか、あるいはTVerで届けるのかという手段の違いだけで、それぞれの価値があります。
どちらが勝つか負けるかではなく、「これが新しいテレビの形だよね」という認識に落ち着くことが、私たちの目指すべき姿だと考えています。

――最後に、今後TVerが目指すKPIについて教えてください。
最も指標としているのは、ユーザー数です。サービスの普及において、いかに多くの方に使ってもらえるかが鍵になりますので、月間や週間のユーザー数のほか、再生回数も重視しています。まずはユーザー規模、そして広告の市場規模をどれだけ伸ばせるかが、直近の目標です。
今後、月間ユーザー数が順調に拡大したとき、あらためて新たなKPIを検討することになるでしょう。個人的には、「再生時間」も一つの指標になるのではと思います。どれだけの時間をTVerで過ごしてもらえたか知ることで、視聴スタイルを推し量ることもできるはずです。
今後も放送局との連携を図りつつ、より幅広くコンテンツを届けるために、さらにTVerを成長させられたらと思います。
TVer採用サイト(https://recruit.tver.co.jp/)
TVer採用ブログ(https://note.com/tver)