東北地方では、地域に根差した「ローカルスタートアップ」を支援する新たな動きが生まれている。福島県南相馬市の無人駅舎を活用したクラフトサケの醸造所、haccobaが象徴的な事例だ。南相馬市小高区は、多くの地域が東京電力福島第一原発から20km圏内にあり、東日本大震災から5年間、居住制限区域などに指定され、震災前に1万2842人だった人口はゼロに。解除後、移住者が増え、緩やかに人口は増加傾向にあるが、2024年3月末時点で依然として4000人を割り込む。
そんな地域で埼玉県出身の代表の佐藤太亮が酒づくりの事業による復興を志し、日本酒製造技術をベースとした新しいクラフトサケづくりを始めた。事業支援するのは、CVCのJR東日本スタートアップから23年春に立ち上がった「JR東日本ローカルスタートアップ合同会社」だ。JR東日本スタートアップでは、鉄道インフラの活用を強みに18年設立当初から「地域共創」を掲げ、へラルボニー(岩手県)など社会性の高い事業にも投資・支援をしてきたが、それでも地域にはカバーしきれないスタートアップがあった。
スモールイノベーターを応援する新ファンド
「JR東日本ローカルスタートアップ」では、24年11月、10億円規模の1号ファンドを組成。地域活性事業が持続的に成長できるように、運用期間は通常のファンドより長い20年で延長あり。すでにhaccobaなど4社に出資した。JR東日本スタートアップ代表の柴田裕は「ローカルスタートアップのファンドでは、融資と株の中間を狙って、あえて買戻条件付きの種類株式を発行しています。多くのローカルスタートアップは、急成長をして上場を目指すわけではありません。ゼブラ企業のように、地域に根差して元気にしていく会社を持続的に応援する仕組みです」と語る。
事業が黒字化して銀行融資を得やすくなれば、スタートアップ側が自社株を買い戻しできるようになっている。キーワードは、投資先の理念や事業への共感を重視した「共感投資」だ。柴田は「鉄道沿線には地域の宝がたくさんあります。それらをローカルスタートアップと一緒に掘り起こしていく。雇用を生んだり、コミュニティをつくったりして地域に挑むスモールイノベーターの受け皿になりたい」と意気込む。
従来のVCでは補完できないスキームはほかにも生まれている。仙台を拠点に活動する東北唯一の独立系VC・スパークルでは、青森銀行、みちのく銀行とともに着実な成長を視野に入れて活動するインパクトスタートアップやゼブラ企業向けに「プロクレアHD地域共創ファンド」を23年2月に組成した。北海道南部から東北地方北部を中心に、社会課題に挑む起業家だけでなく、新規事業開発に取り組む中小企業も対象に社債や株式を発行する形式で、計7社に投資した。下記のコーナーで紹介したBEHIND THE CASKやappcycleもその一例だ。
スパークル代表取締役の福留秀基によると、地銀が地域VCとタッグを組み、地域での新規事業をフルサポートする体制構築のニーズが各地で高まっているという。「共創」を軸に地域にとって欠かせないピースとなるローカルスタートアップの挑戦を後押ししていく。