「2025年は『AI Augmented Communication』、すなわち『AIにより拡張されたコミュニケーション』の元年となるでしょう」
そう話すのは、AIエンジニアで起業家、小説家の顔ももつ安野貴博だ。24年7月には小池百合子が再選した東京都知事選で15万4368票を集め話題になった。政治の世界では無名だったが、組織的な援助のない30代の都知事選新人候補として過去最高の得票数だった。11月にはこの功績の影響もあり、行政のデジタル化に取り組む都の出資団体「GovTech東京」のアドバイザーに就任した。

安野の政策を読み込んだ支持者たちはネット上で活発に議論を行い、その結果16日間で36個もの提案が政策に取り入れられた。
「これまで政治の議論というと立場の違いで荒れることが多く、罵詈雑言のやり取りに終わってしまうことが少なくありませんでした。しかし我々が用意した議論の場は、AIが誹謗中傷や不適切な書き込みを見つけてフィルターをかけていたので、健全で前向きな政策議論が可能になったのです」
このような「AIが人間同士のやりとりの間に入り、コミュニケーションを強化する」ことを、安野はAI Augmented Communicationと呼んでいる。
「会社で使われるSlackや、家族や友人同士の連絡で使うLINEでも、ちょっとした言葉足らずや誤解で、相手に対してネガティブな気持ちを抱くことはよくあります。しかしお互いの立場やそれまでの文脈をAIが把握していれば、適切に言葉を補ったり言葉を和らげたりすることで、不必要な対立やけんかを未然に防ぐことができるのです」
さらにAIが人間同士のコミュニケーションに入ることで、新しい言論空間が生まれる可能性もある、と安野は言う。10万人、100万人がAIを介して同時に議論するようになれば、民主主義自体のあり方もアップデートされるだろう。
「これまでのリアルな言論の場では、10万人が一度に議論するのは不可能でした。今後、AIが人間(ユーザー)の代弁者になっていけば、10万人のなかから自分と似た意見をもつ人々を抽出して協力したり、違う意見をもつ人々とわかりあえる部分を探ることができるようになります」
また、AI Augmented Communicat ionが教育の現場に取り入れられれば、生徒一人ひとりの理解度に合わせ、教師や教科書の言葉をAIが補足することも可能になる。