サイエンス

2025.01.26 17:00

鉄道建設を悪夢に陥れたツァボの「人食いライオン」はなぜ誕生したのか

Steffen Foerster / Shutterstock

問題の2頭のライオンの場合、いくつもの要因が重なったことで獲物の切り替えが促されたようだ。研究によれば、当時は牛疫(家畜や野生偶蹄類に感染するウイルス性疾患)により、周辺の草食獣の個体数が激減しており、ほかの獲物の選択肢が少なかった。加えて労働者キャンプは、ライオンにはリスクはあったが、粗雑に埋葬された遺体と無防備な労働者という「豊富な食料源」があった。
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行動学研究から、人間の居住地の周辺で暮らすライオンは、ほかの食料源が乏しくなった際に、ヒトの捕食に順応しやすいことも明らかになっている。

ツァボのライオンはなぜ独特なのか?

ツァボのライオンは、独特の身体的・行動的特徴で知られる。人食いライオンたちにたてがみがなかったことはすでに触れたが、これはこの地域のライオンの特徴であり、周辺地域の高温気候への適応とされる。オーバーヒートの危険性を下げるとともに、棘だらけの植生をすり抜けて移動する上でも有利だと考えられている。

ライオンは、アフリカの他地域では「プライド」と呼ばれる群れをつくるが、ツァボでは概して単独性傾向が強い。単独行動は、狩りの戦略にも反映される。統率のとれた集団行動よりも、忍び寄りや待ち伏せに頼ることが多いのだ。

また、ツァボの人食いライオンが示した大胆さは異例であり、彼らはヒトへの警戒心が薄かった。ライオンは通常ヒトを避けるが、この2頭は例外的に高い攻撃性を示した。このような逸脱はさまざまな憶測を呼び、環境ストレス、なわばりをめぐるプレッシャー、さらには、神経生物学的異常といった説が飛び交った。
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ゴーストとダークネスの歯を分析したところ、著しい摩耗と負傷が見られ、どちらか1頭または両方について、通常の獲物の捕食が難しい状態だったことが示唆された。これらの知見は、身体にハンデを負った場合にヒトを獲物にしやすくなるという、ほかの肉食獣についての知見とも一致する。

虫歯の穴に詰まっていた「獲物の毛」のDNA分析から、2頭はヒトだけでなく、シマウマ、オリックス、ウォーターバック、ヌー、マサイキリンも食べていたことがわかった。ここから、彼らは本来の獲物と人間の両方を標的にしていたと考えられる。

「ツァボの人食いライオン」の教訓

ゴーストとダークネスの物語は、ヒトと野生動物の複雑な相互作用の最も極端な形として記憶に刻まれている。生息地の侵食、環境変化、人間活動の組み合わせにより、両者の衝突は激化しがちだ。

ライオンは、今なお原野と力の象徴だが、我々がこうした衝突をどれだけよく理解し緩和できるかが、ますます彼らの生存を左右するようになってきている。

現代の自然保護従事者たちは、生息地の破壊を抑制し、ライオンたちがもともと獲物にしていた動物たちの個体群を維持することが重要だと説く。ツァボのライオンの逸話は、ヒトと肉食獣の両方のニーズに配慮した、バランスのとれた共存を図ることの重要性を裏づけている。

forbes.com 原文

翻訳=的場知之/ガリレオ

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