米国でペットフード関連事業を展開するペディグリーは、「2050年までに施設に収容されているホームレス犬を根絶させる(すべての犬に里親を見つける)こと」を、ブランド・パーパスとして掲げている。このパーパス実現のために、広告用メディア費の25%を充ててきたが、いまだに全世界には1200万頭ものホームレス犬が存在している現実があった。

そんな中、ペディグリーは本気で「ホームレス犬根絶」に取り組もうとし始めた。“もらい受け”を促す広告を新たにつくっていたのでは、間に合わない。というわけで考え出されたのが、「Adoptable」プロジェクトだ。
Cannes 2024 | Case Study - Pedigree: Adoptable
ペディグリーの広告は、商品広告であれブランド広告であれ、ほとんどの広告に犬が登場する。その犬をすべてホームレス犬にしようと考えたのだ。しかし、施設で暮らすホームレス犬一頭一頭のハイクオリティな写真を撮ることは現実的ではない。そこで同社はAIを開発し、犬ごとの特徴は活かしたままで、通常の写真を広告掲載に耐えられるハイクオリティな写真へと変換した。

また、そのすべての広告がホームレス犬根絶にもつながっている。まずは屋外のデジタル広告に、その近隣の施設で暮らすホームレス犬が起用された。デジタル広告に表示されたQRコードを読み取ることでランディングページに飛び、広告に起用されたホームレス犬の特徴などを読むことができる。さらに施設を訪れて実際に対面するためのアポイントまで取ることができる仕組みだ。
Ad(広告)を起点にしてAdoptable(もらい受け可能だ)というのが、このプロジェクト名の意味するところだ。しかも、里親が見つかったホームレス犬の写真は、即座にデジタル広告から除かれて、別のホームレス犬に代わる。
一部の広告では、通勤で帰宅する途中の人々が目にする場所にあるデジタル広告で、そのホームレス犬からの呼びかけに見えるように、「家に帰るの? 僕も行ってもいい?」といった、もらい受けを促すストレートなコピーも掲載された。

広告起用の犬の半数が里子に
この施策は、まず愛犬家が多いことで有名なニュージーランドで実施された。結果、お目当てのホームレス犬に会いに施設を訪れる人の数は、6倍に増加。また、もらい受け検討のためユーザーがウェブ上で犬のプロフィールを見る時間は、施策前に比べて4.5倍長くなった。広告に起用されたホームレス犬の半分は、最初の2週間で里親が見つかったという。ペディグリーはこの施策をさらに推し進め、動画広告でもこのシステムを活用できるように開発していて、2026年中には、73の地域のあらゆるタッチポイントでこのAdoptableを実施する予定だと言う。
本件は経営やブランディングの核となった事例であり、まさに「パーパスは、本気で実行に取り組んでこそ」と言えるだろう。