経営・戦略

2025.01.25 11:30

ネットポジティブ2.0、ポール・ポルマン元ユニリーバCEOが語る

ポール・ポルマン|英ユニリーバ元CEO(Getty Images)

ネットポジティブとインパクトは同義語

──「ネットポジティブ」とは?
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ポルマン:半世紀にわたって短期主義を奨励してきた企業の教条主義と規範を逆転させること、株主至上主義をやめることだ。利益を求めて環境を汚染したり、自然という長期的資産を破壊したりするようなビジネスモデルには意味がない。(英国出身の)米経済学者ケネス・ボールディングは生前、こう言った。「有限な環境のなかで無限の成長ができると考えるのは、狂人か経済学者のどちらかだ」と。

成長モデルの再考案と、「CSR(企業の社会的責任)」から「RSC(責任ある社会的企業)」への転換が必要だ。2024年の「アース・オーバーシュート・デー(EOD)」は8月だった。EODとは、その年の資源消費が1年間で再生可能な量を上回る日のことだ。気候変動は2.9℃の気温上昇を招きかねない。

日本には、近江商人が買い手や売り手、社会にとって良い商売を目指すべくモットーとしていた「三方よし」という概念がある。創業100年超の企業が日本に最も集中しているのは驚くに当たらない。企業は収穫以上のものを「与える」ことで、成長する。問題を引き起こすのではなく解決することで、いかに利益を得られるか? 自社の存在が世界をより良くしているか? この問いが重要だ。
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ネットポジティブはインパクト投資と同義語だと言っても過言ではない。両者の原則や信条は一致する。すべての投資は持続可能であるべきだ。

──ネットポジティブ企業を目指すうえで実践すべき重要な5原則を挙げていますね(第1章)。

ポルマン:ひとつ目の原則は、「意図するしないにかかわらず、自社が及ぼす影響・結果に責任を負う」ことだ。バリューチェーンに責任もアウトソースできるなどと考えてはいけない。ユニリーバは、環境への影響と成長を切り離し、森林破壊の阻止や、バリューチェーン全体での公正な賃金の実現、多様性確保といった問題の解決に努めている。

次が「企業と社会の長期的ベネフィットのために活動する」ことだ。3つ目は「すべてのステークホルダーにプラスのリターンをもたらす」ことだ。コロナ禍では、全ステークホルダーに配慮した企業は回復が早かったが、株主重視の企業は、サプライヤーや地域社会から、必要な支持を得られなかった。4つ目が「目標ではなく結果として、株主価値を高める」ことだ。株主への利益還元は重要だが、それは行いの結果であって、目的ではない。ユニリーバは全ステークホルダー・モデルに注力しており、300%のリターンを達成したこともある。私はCEO就任後、四半期決算の発表をやめ、決算報告を2回に減らした。報酬制度も変更し、従業員の行動も変わった。長期的に投資してくれる株主も増えた。

最後の原則が「システミックな変革を推進するために、パートナーと協業する」ことだ。志を同じくする団体などと協働すべきだ。

経済は、その大半が企業に依存しているため、企業の役割は非常に重要だ。企業には、資金やイノベーションがある。合意を見なかったCOP16など、多国間の機関がうまく機能しないなか、企業の重要性はさらに増している。気候変動による災害コストは過去10年間で2兆ドルに達した。サプライチェーンの寸断など、企業は高いツケを払っている。業界内外で協働すべきだ。日本の経団連は「サステナブル(持続可能)な資本主義」をうたっている。

私がユニリーバに入社したとき、持続可能な方法で調達されていた製品は1割だったが、退任時には95%になっていた。ハムディ・ウルカヤという私の友人が2005年にニューヨーク州で創業した米ヨーグルトメーカー「チョバニ」は地元の農家と強固な関係を築き、「責任ある農業」を目指している。

インドネシアの日用品・化粧品メーカー「パラゴン・テクノロジー・アンド・イノベーション」は、全製品の調達が持続可能であるだけでない。利益を地域活動などに還元している。「ネットポジティブ」をビジネスモデルに統合することが大切だ。
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インタビュー=肥田美佐子 イラストレーション=アレクサンダー・サビック

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