この研究ではまた、脳脊髄液量の変化も明らかになった。大脳内部にある馬蹄形の空間、側脳室の脳脊髄液量は妊娠中期から後期にかけて増加し、産後は急激に減少した。これは妊娠中および出産後の回復期におけるさまざまな体液(血液、羊水など)量の変化と連動している可能性がある。
脳の変化が「母親」をつくる
この他、脳の変化は妊娠後期のステロイドホルモンレベル、特にエストロゲンの一種であるエストラジオールと著しく連動していることも判明した。エストラジオールは生殖器官の発達と第二次性徴(思春期の身体的な変化)に欠かせないホルモンだ。ホルモンと脳機能のこの連動は、妊娠期に内分泌と神経可塑性が複雑な相互作用を起こしていることを示している。しかしこれらは単なる構造的な変化でなく、より深い目的を持っているようだ。なぜなら一連の脳の変化は、「母性行動」と関連するものだったからだ──例えば、妊娠中に感じる胎児との絆、巣作り本能(出産が近づくと家の大掃除を始めてしまう、など)、乳児の行動に対する生理的反応(泣き声を聞くと心拍数が上昇する、など)を再編成された脳が促す。このことから、脳の変化は女性が母親になるために神経回路を微調整し、母性行動を取らせるための自然の摂理であることがわかる。