サイエンス

2025.01.20 18:30

船の座礁を機に絶滅した「世界最大の飛べないナナフシ」、20km離れた島で発見

飛べないにも関わらず20km離れた海食柱で再発見されたロードハウナナフシ(Getty Images)

実に不可解だった。ボールズ・ピラミッドは、植生が乏しいただの断崖で、およそ生命の楽園とは考えられなかった。
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こうした噂は長らく真偽不明のままだったが、2001年に研究者たちの調査チームが結成された。ニューサウスウェールズ州の環境・史跡庁に務めるデビッド・プリッデルとニコラス・カーライルが、野心的な調査に乗り出したのだ。彼らの目的は、ロードハウナナフシが本当に絶滅したのかを確かめることだった。

「我々は、このナナフシを探しに行くという人たちの許可申請をいくつか受け取っていたのですが、上陸者の名簿のなかに昆虫学者が1人もいなかったんです!」と、カーライルは言う。「そのうちに、デイブが私にこう言ったのです。『なあ、これに終止符を打つには、我々が行って、ここにナナフシはいないって証明するしか手はないぞ』と」

調査チームは、不安定な足場にも負けずに海食柱を登り、異世界のような光景を目の当たりにした。強風が吹き荒れ、生命とは無縁に思える寂しい場所だった。
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ところが、狭い岩盤の裂け目に茂る、固有種のティーツリー(学名:Melaleuca howeana)の群落のなかに、奇跡が隠れていた。3匹の生きたロードハウナナフシを、彼らは発見したのだ。

個体群は風前の灯で、この小さな岩石露頭に生き残る個体はわずか24匹だった。あらゆる逆境を乗り越え、この昆虫は命をつないだ。食料であり隠れ家である、たった1つの茂みを命綱として。

ボールズ・ピラミッド Erin Wyatt / Shutterstock

ボールズ・ピラミッド(Erin Wyatt / Shutterstock)

ナナフシがどうやってボールズ・ピラミッドに到着したのかはいまだ謎のままだ。しかし、マカンボ号の座礁前に採集されていた古い標本のゲノムを再解析した結果、ボールズ・ピラミッドの集団がロードハウ島のものと同種であり、ロードハウ島での絶滅を乗り越えた集団であることが裏づけられた。この研究論文は、2017年10月に学術誌『Current Biology』に掲載されている。

この昆虫のしぶとさは驚異的だ。その一因と考えられるのが、オスがいなくてもメスだけで繁殖できる、単為生殖と呼ばれるユニークな特徴だ。この能力は、絶滅寸前の種にとって遺伝的なライフラインとなった(訳注:ナナフシは、鳥に食べられた卵の一部が無傷で排泄され、その後孵化することが、2018年の研究で判明している)。
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翻訳=的場知之/ガリレオ

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