テクノロジーが可能にする社会貢献
エリス=ラムキンズはカリフォルニア州スイスン・シティで育った。ウェイトレスとして働くシングルマザーに育てられ、一家はフードスタンプ(食料品購入券)などの支援を受けていた。白人の母親と黒人の父親をもつ彼女は、母親に対する扱いと、父方の祖母に対する扱いの歴然たる差を目にしたことを覚えている。カリフォルニア州立大学ノースリッジ校を卒業する前から、彼女はサービス労働者を代表する労働組合(SEIU)の地方支部でオーガナイザーとして働き、27歳のときには、100以上の労働組合と10万人以上の労働者を代表するアメリカ労働総同盟・産業別組合会議(AFL-CIO)のサウスベイ地域労働協議会の専務理事を務めるようになっていた。
2009年、カリフォルニア州オークランドに拠点を置く非営利団体「グリーン・フォー・オール」のCEOに就任。15年には、テクノロジーを活用して、介護が必要な高齢者と介護者をマッチングする「オナー(Honor)」に入社した。
そして17年、エリス=ラムキンズは、友人で長年の同僚でもある弁護士のダイアナ・フレイピア(52)とプロミスを創業した。当初注力したのは、保釈制度の改革だ。テクノロジーを活用して、保釈手続きをより効率的にするというアイデアを固めたのは、友人からの電話がきっかけだった。軽微な罪を犯したその友人は、紙に書かれた出廷日を読み間違えたせいで、大ごとになっていると知らせてきたのだ。これを機に、エリス=ラムキンズは、法を犯した人々に出廷日などを再通知し、拘置所の薬物検査の管理にも対応した自分たちのソフトウェアを売り込み、いくつかの自治体から契約を取りつけた。しかし、ある郡の拘置所において、事業の方向転換を余儀なくされる経験をすることとなる。
「彼らは、大麻所持で逮捕された人を7年間も収監していると自慢げに話していたんです。私は会議を途中退席し、“ここにいるべきではない”と思いました」。
エリス=ラムキンズは、刑事司法制度にかかわる仕事を通して、駐車違反などの罰則金を支払えない人の多くが、必要書類を携え裁判所へ出向くために仕事を休まなければならないことを知っていた。どんなに面倒でも、そうしなければ逮捕状を出されかねないからだ。「人々が抱える負債状況に対して制度が破綻している。しかし、これはテクノロジーで解決できます」。
彼女はそれを証明するため、特に駐車違反の多いオークランド、フィラデルフィア、ダラスで、反則金を滞納している人々に無利子の融資を提供した。すると、9割がプロミスにきちんと返済したのだ。彼女は、厳しい取り立てではなく支援を通じて、未収金の回収率を最低13%から最高95%まで向上させることができると、地方政府を説得しにかかった。
2021年に、プロミスを最初に利用し始めた自治体のひとつがケンタッキー州ルイビルだ。プロミスは着実に実績を積み上げ、やがてプロミスが契約してくれそうな地方自治体を見つけ出すのではなく、逆に自治体の関係者らがプロミスを探し出すようになった。
プロミスは公共料金の支払いのほかにも、駐車違反の罰金から地方税の納付まで、あらゆるところにビジネスの可能性を見いだしている。本人確認や所得確認のサービスも検討中だ。機械学習の活用も進めており、例えばフードスタンプのように、すでに何かしらの受給認定を受けていれば、書類申請を省略してほかの低所得者向け支援を受けられるようにしようとしている。
「私は強い正義感からこの仕事に魅力を感じていますが、人々が私たちの製品を選ぶのは、他より優れているからです」と彼女は言う。「私は心の底から他社に勝ちたい。誰かから搾取するやり方は、私たちが進むべき道ではないと示したいのです」
フェードラ・エリス=ラムキンズ◎1976年生まれ。プロミスの共同創業者兼最高経営責任者(CEO)。カリフォルニア州スイスン・シティで育ち、労働組合団体やポップスターであるプリンスの事業アドバイザーなどを務めた後、2017年に同社を創業した。