実際にはそううまく進んでいない。2024年末までに、日本の平均賃金の伸びがインフレ率に追いついていないことは明らかだった。中国が
デフレを輸出するなか、植田和男総裁率いる日銀は同年12月19日、日本は金利を正常化する準備が整っていないと判断し、政策金利の誘導目標を0.25%で据え置いた。
これは日本株に殺到していた海外の投資家たちをひどく当惑させた。この期におよんでなお日本経済には「補助輪」が必要だと日銀が考えているのなら、自分たちはなぜ日本企業に賭けるべきなのだろうかと。
一方、中国はたしかに巨大な不動産危機をはじめとする数々の難しい課題に直面しているが、習のチームは半導体、電気自動車(EV)、バイオテクノロジー、航空、ロボット工学、再生可能エネルギー、人工知能(AI)、高速鉄道といった分野で、着実に中国の競争力を高めてきた。EVでの中国の成功は、ホンダと日産自動車の経営統合を促すことにもなった。日本ウォッチャーでもこの統合を予想していた向きは少ない。
日銀が利上げに対して腰が引けているのは、もっぱら円相場への影響を気にしているからだろう。2024年7月、植田のチームが政策金利を2008年以来の高さに引き上げたとき、円が急騰し、日本株への投資家をパニックに陥れた。また、日本の政治エリートにも衝撃を与えた。自民党とその連立パートナーが、日銀に対して当面、金融引き締めを控えるよう圧力をかけていてもおかしくはない。
トランプの返り咲きは状況をますます厄介にする。足元で1ドル=150円台後半の円相場が1ドル=160円を越え、さらに170円に近づいていけば、トランプがメキシコ製の車に課すと脅している100%の関税が、日本製の車にも拡大されるまでにどれくらいかかるだろうか。あるいは
韓国製の車にも。
トランプの関税、ドル安幻想、あるいは富裕層や大企業を優遇して経済を活性化すれば低所得層や中小企業にも恩恵が行き渡っていくという「トリクルダウン経済」に基づく税制戦略が、1980年代に根ざしていることは言うまでもない。それらが、もはや存在しない世界システムを復活させようとするものであることも。トランプが熱望しているらしい80年代への回帰によって、日本は今後、日本政府が予想もしないような仕方で争いに巻き込まれることになるかもしれない。
(
forbes.com 原文)