米政府は過去には、日本政府の近隣窮乏化政策をおおむね黙認していた。それは、目的が手段を正当化して、円安でアジア第2の経済大国が復活してくれれば、米国にも恩恵がおよぶだろうという算段からだった。「トランプ1.0」政権でさえ、当時トランプの応援団長だった安倍晋三首相率いる日本が、円安戦略を追求するのを見て見ぬふりをした。
トランプ2.0政権ではそうはいかないかもしれない。トランプは昨年11月5日の大統領選で衝撃的な勝利を収めて以来、石破からの面会要請を拒んでいるようだ。石破は2月以降にトランプと会談する方向で調整していると伝えられるが、トランプはすでに日本以外の国の多くの首脳らと面会している。日本政府にとってさらに残念なことに、トランプのチームは大統領就任式に習を招待した(編集注:習本人は出席を見送り、代わりに高官を特使として派遣すると報じられている。日本からは岩屋毅外相が出席する予定)。
アジアがかつて経験したことのなかったような貿易戦争をトランプが仕掛けようとするなか、日本が米政府の優先順位の低い国リストに入れられることは、日本政府にとって最も避けたい事態だ。折しも日本経済の先行きに不透明感が強まっているだけに、なおさらだ。
「タリフマン(関税男)」を自任するトランプが、その保護主義的な世界観を磨いたのは40年前にさかのぼる。1986年、マイケル・キートンの主演で、「ニッポン株式会社」によって没落したデトロイトの自動車産業を描いた『ガン・ホー』が製作された頃だ。前年には、米政府がドル高是正のための「プラザ合意」を取りまとめ、これをきっかけに日本はバブル経済の時代に突入していく。奇しくも、プラザ合意の会議会場となったニューヨークのプラザホテルは、一時トランプが所有していた。
マイケル・クライトンの1992年のベストセラー小説『ライジング・サン』で題材にされた時代でもある。ビジネスマンのトランプは当時、昼間のトークショーに出演し、「日本はせっせとアメリカから血を吸い取っていった。吸い尽くしたんだ。彼らは殺人を犯して逃げた。結局は戦争に勝ったんだ」などと日本への不満をぶちまけていた。
これは性急な結論だった。続く1990年代、日本にはデフレが到来した。2024年春、日本の労働組合は33年ぶりの高い賃上げをついに手にした。日本銀行が25年にわたるゼロ金利政策で生み出そうと
努力してきた、賃金上昇と消費拡大の好循環が、ようやく始まったように思われた。