超大型ロケット「SLS」廃止の可能性
米国が主導するアルテミス計画では、月や火星にヒトを送り込もうとしている。その実現のためにNASAは超大型ロケット「SLS」を運用しているが、その主要部位となる第1段ブースターの開発製造はボーイング社が請け負っている。ただし、その開発、製造、運用における過大な予算超過が問題視されている。NASAの運営を監視するNASA監察総監室(OGI)によると、SLS事業の総コストは2023年時点で545億9900万ドル(約8兆5720億円)と試算され、当初予定の4倍以上に達している。SLSの打ち上げは2026年以降、長期間継続される予定であり、その間には機体の仕様変更も必要になる。そのため予算超過は増加の一途をたどると予想される。
このSLS事業を、政府効率化省(DOGE)のトップとなるイーロン・マスク氏が看過するとは思えず、歳出の大幅圧縮を唱えるトランプ氏も、その廃止に同意すると思われる。SLSの審査を米議会に委ねれば、全米各地にまたがるSLS生産拠点の雇用を守ろうとする議員や、その他さまざまな利権により、 SLS事業は継続される可能性が高い。でなければ財政的に不合理なこの事業はすでに廃止されていただろう。そのためトランプ氏がSLS廃止の意思を固めれば、議会の承認を得ることなく、大統領令によって決定されるに違いない。その場合、ボーイング社は莫大な売上と利益を失うことになる。
SLSの代替機としてはイーロン・マスク率いるスペースXの超大型機「スターシップ」と、ジェフ・ベゾス率いるブルーオリジンの新型ロケット「ニューグレン」などが挙げられる。スターシップは現在テストフライトを繰り返し、ニューグレンは1月中に初フライトを予定している。
SLSの場合、その開発から打ち上げに至るすべての費用はすべてNASAに請求され、その10%程度が手数料としてボーイング社に支払われている。こうした契約をコストプラス方式という。ただしこの契約の場合、請負業者におけるコスト圧縮の意識は薄く、コストを圧縮して自社の売上を落とした請負業者スタッフは 降格される場合さえある。


