それらを受けて今回、教師は聖職者か労働者かという古くから交わされてきたテーマをめぐり、現場の生の声を取り上げながら考察する。
劣悪な労働環境の代名詞が「ブラック」。私の属する医療業界も、当直明け連続勤務など長時間労働が問題になってきたが、こと時間外労働においては、ブラック度で引けを取らないのが教員の世界だ。
一昨年の文部科学省調査では、月45時間以上残業した教諭が公立小学校で64.5%、公立中で77%を超える。一方で1972(昭和47)年の給特法施行以来、教員の残業代は一律4%据え置きのままだったが、来年度から段階的に引き上げられ、2030(令和12)年度には10%に増額される。
残業時間、「自宅への持ち帰りを除いて」110を超えることも
・40代の小学校教師Aさん6年前、40代の小学校教師Aさんが当院を受診。10数年前に職場が変わってから業務量の多さに心身の不調をきたし、寝られず食べられずの状態が続いた。妻が病気加療中だったせいもあり、「このまま死んだら楽になれるかも」と話すなど明らかにうつ状態だったので休職を勧めたが、一度休むと復帰できないのではという恐怖心から固辞された。
以来、Aさんは1カ月半に一度のペースで通い続け、今に至っている。抗うつ薬は辞退され、降圧薬と漢方薬を出すのみ。あとはひたすら話を聴き続ける対応に、毒でも吐くかのごとく愚痴をこぼすことで心の均衡を保っている。残業は月80時間から多いときは110を超えて、血圧と間違うほど。しかも、これには自宅への持ち帰り業務(30時間ほど)は含まれていない。
・40代の家庭科教師Bさん
やはり40代で、中学校で家庭科を教えるBさんは5年前から当院へ通う。受診理由はAさんと同じく、職場環境についてだった。新任だった25年前当時に配属され、悪い印象の残る学校に再度赴任を命じられた彼女は、 いやな記憶がよみがえって不安定になり、不眠、食欲不振などAさんと同じ症状を呈していた。診察机越しの声が、エアコンの運転音が邪魔になって聞き取れないほどか細く、スイッチを切ったまま診察を続けた。
Bさんは持病もあって疲れやすく、どうしたものかと思案していると、異動希望が通った。ところが、昔の教え子が教師になっていて、同じ職場になり微妙な関係に悩んだ。校長とも相性が合わない様子で、「机の上が片付かないのを注意されて」と不満げ。残業はAさんと同じでひどく、115時間の月があった。
「100を超えると産業医面談と分かっているので90で出したら、きちんと出しなさいとたしなめられた」
二人に共通している特徴として、50歳前後という仕事には脂の乗り切った年代である点。まじめで仕事には全力を尽くすが、それが裏目に出て燃え尽き症候群のような状態になっている点、どちらかといえばコミュニケーションは苦手で、ひとりで仕事を抱え込む傾向の強い点、などが挙げられる。
これらの特徴は、うつ病患者ではよく見られる。うつ病発症の機序として、先天的因子(気質、体質)に後天的因子(ストレス因子の増大、防御因子の減少)が重なって、脳神経系に異常をきたすとされる。いまや、「教師」という職業自体が、後天的因子の促進ファクターとして作用する時代に突入しているのかもしれない。
こうした思いをめぐらすときに浮かぶ言葉がある。