働き方

2025.01.16 15:15

元記者の精神科医が診た『心病む教師たち』、彼らは聖職者か奴隷か

中日新聞の記事から

中日新聞の記事から

今年は戦後80年。昭和で数えて100年の節目に当たる。前回当欄で自民党裏金問題と名古屋市教育委員会金品授受の両事件を題材に、「先生へのまなざし」がどう変遷したかを論じた。昨年末には「精神疾患で休職する教員最多更新」「教員給与10%上乗せ」の記事が紙面をにぎわせた。

それらを受けて今回、教師は聖職者か労働者かという古くから交わされてきたテーマをめぐり、現場の生の声を取り上げながら考察する。

劣悪な労働環境の代名詞が「ブラック」。私の属する医療業界も、当直明け連続勤務など長時間労働が問題になってきたが、こと時間外労働においては、ブラック度で引けを取らないのが教員の世界だ。

一昨年の文部科学省調査では、月45時間以上残業した教諭が公立小学校で64.5%、公立中で77%を超える。一方で1972(昭和47)年の給特法施行以来、教員の残業代は一律4%据え置きのままだったが、来年度から段階的に引き上げられ、2030(令和12)年度には10%に増額される。


残業時間、「自宅への持ち帰りを除いて」110を超えることも

・40代の小学校教師Aさん

6年前、40代の小学校教師Aさんが当院を受診。10数年前に職場が変わってから業務量の多さに心身の不調をきたし、寝られず食べられずの状態が続いた。妻が病気加療中だったせいもあり、「このまま死んだら楽になれるかも」と話すなど明らかにうつ状態だったので休職を勧めたが、一度休むと復帰できないのではという恐怖心から固辞された。

以来、Aさんは1カ月半に一度のペースで通い続け、今に至っている。抗うつ薬は辞退され、降圧薬と漢方薬を出すのみ。あとはひたすら話を聴き続ける対応に、毒でも吐くかのごとく愚痴をこぼすことで心の均衡を保っている。残業は月80時間から多いときは110を超えて、血圧と間違うほど。しかも、これには自宅への持ち帰り業務(30時間ほど)は含まれていない。

中日新聞2025年1月5日の社説

中日新聞2025年1月5日の社説

・40代の家庭科教師Bさん

やはり40代で、中学校で家庭科を教えるBさんは5年前から当院へ通う。受診理由はAさんと同じく、職場環境についてだった。新任だった25年前当時に配属され、悪い印象の残る学校に再度赴任を命じられた彼女は、 いやな記憶がよみがえって不安定になり、不眠、食欲不振などAさんと同じ症状を呈していた。診察机越しの声が、エアコンの運転音が邪魔になって聞き取れないほどか細く、スイッチを切ったまま診察を続けた。

Bさんは持病もあって疲れやすく、どうしたものかと思案していると、異動希望が通った。ところが、昔の教え子が教師になっていて、同じ職場になり微妙な関係に悩んだ。校長とも相性が合わない様子で、「机の上が片付かないのを注意されて」と不満げ。残業はAさんと同じでひどく、115時間の月があった。

「100を超えると産業医面談と分かっているので90で出したら、きちんと出しなさいとたしなめられた」

二人に共通している特徴として、50歳前後という仕事には脂の乗り切った年代である点。まじめで仕事には全力を尽くすが、それが裏目に出て燃え尽き症候群のような状態になっている点、どちらかといえばコミュニケーションは苦手で、ひとりで仕事を抱え込む傾向の強い点、などが挙げられる。

これらの特徴は、うつ病患者ではよく見られる。うつ病発症の機序として、先天的因子(気質、体質)に後天的因子(ストレス因子の増大、防御因子の減少)が重なって、脳神経系に異常をきたすとされる。いまや、「教師」という職業自体が、後天的因子の促進ファクターとして作用する時代に突入しているのかもしれない。

こうした思いをめぐらすときに浮かぶ言葉がある。
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文=小出将則

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