研究者たちは現在、中国に残るイチョウの群落の一部は、仏僧たちが保護し育成したものだと考えている。僧侶たちにとって、美しさ、強靭さ、(葉や種子の)治療効果を備えたイチョウは畏敬の対象だった。
実に皮肉な展開だ。ヒトが数多の生態系破壊を引き起こす現代にあって、人類誕生の数億年前から生きつづけてきた種の救済に、私たちが決定的な役割を果たしたのだから。
今日のイチョウは、世界各地の市街地や公園、寺社の境内に優雅な彩りを添えている。イチョウは、汚染や病害虫、過酷な気象条件によく耐えるというその強健さのおかげで、都市環境に最適だ。イチョウの長寿は、単なる偶然の賜物ではなく、生物学的特性に深く根差したものだ。
千年以上の樹齢を可能にする遺伝子
ほとんどの生物と異なり、イチョウには老化の明確な証拠がみられない。最終的には死に至る生物学的加齢を免れているらしいのだ。樹齢600年のイチョウの木でさえ、若木と同等の成長能力と免疫反応を備えていることが、2020年1月に学術誌『米国科学アカデミー紀要(PNAS)』に掲載された論文で報告された。細胞レベルでは、イチョウは生涯を通じて抗酸化物質や抗菌物質を生成しつづけ、病気や感染を寄せつけない。イチョウの形成層(幹にある幹細胞の層)は、頑丈で活性を失わないため、成長を持続することができる。興味深いことに、いくつかの研究から、イチョウの老木は、若木よりも成長が速い可能性さえ示唆されている。
このような現象を可能にするのは、周径の増大と、栄養を効率的に貯蔵し輸送する能力だ。数百年にわたって代謝機能と構造的一体性を保つこのような能力は、植物界で他に例がない。
その上、イチョウは順応性でもずば抜けている。自然災害によるものであれ、広島のような核爆発によるものであれ、どんな損傷を受けても再生する。深く根を張り、土壌にしっかりと自分自身を固定し、過酷な環境下でも水と栄養を獲得する。さらに、厚い樹皮が強靭性を高め、害虫、病気、環境激変から身を守る自然のバリアとなっている。
イチョウの長寿には、遺伝的組成が重要な役割を果たしているという、興味深い知見がある。研究によれば、病原体抵抗性やストレス反応に関連するイチョウの遺伝子は、老木になってもまったく活性が衰えない。このような防御物質の持続的生産は、けっして弱体化しない免疫系のようなもので、この形質のおかげでイチョウは時の試練を耐え忍ぶことができるのだ。
(forbes.com 原文)