政治

2025.01.08 16:45

多様化する「市の花」、自然と文化の意識の高まりか

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多くの自治体が「市の花」を制定しているが、近年に制定されたものほど多様性が高いことが調査によってわかった。一見して何のためのものかわかりづらい地味な調査に思えるが、これは各自治体が地元特有の生物多様性や生態系の価値を認識し、それを保全し活用する政策転換につながる重要な意味を持つ。
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東京大学、東京都立大学、国立遺伝子研究所、岡山大学をはじめとする研究グループは、日本全国の自治体が定めた市の花と、それが制定された年との関連を調査した。東京都の23区を含む全国815自治体の公式ホームページに示された市の花の制定種、制定年、制定理由を調べ、1952年から2021年の間の793の制定事例をもとに解析を行ったところ、1993年ごろを境に、花の制定種が多様化していることが判明した。また、地域的文脈、つまり地域に根ざした価値が制定理由に含まれる確率も、近年になるほど高くなっている。

その「価値」は、生物多様性や生態系が人に与える恩恵を科学的な立場で政策に活かす提言を行う政府間組織「生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォーム」(IPBES)が定めた、内在的価値、道具的価値、関係的価値に分けることができる。内在的価値とは、人間とは関係なくその植物が持つ固有の価値。道具的価値とは、人への有用性。関係的価値とは、その場所で自分らしく豊かに生きるために、また地域社会の結びつきの強化に必要な特徴のことだ。

調査では、近年になるほど道具的価値が含まれる確率が大きく上昇しているが、内在的価値が含まれる確率もわずかに上がっている。また、制定件数の多いツツジ、サクラ、キク、サツキ、コスモスと、ひとつの市でしか制定されていない「レア種」について解析をしたところ、道具的価値が高いサクラの制定が大きく増加しているのと同時に、内在的価値が高いレア種の制定も増えている。

市の花の多様化は、地域的文脈への注目度の高まりを意味し、地域独特の自然と文化の相互作用にも意識を向けさせてくれる。そうして、「生物文化多様性への理解がさらに浸透し、保全政策などに反映されていくことが期待」されるということだ。保全のみならず、それはやがて地域固有のビジネスを生み、地方のエシカルな活性化につながるはずだ。

プレスリリース

文 = 金井哲夫

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