9. 2025年のIPOを目指すKlarnaが謳う「AI活用」は精査によって大げさな宣伝だったと判明する
Klarnaはスウェーデン拠点の「後払い」サービス企業で、2005年の創業以来、約50億ドル(約7850億円)のベンチャー投資を調達してきた。同社ほどAI利用を誇張している企業は珍しい。数日前、CEOのセバスチャン・シーミアトコフスキはBloombergで、「これ以上、人間の従業員は採用していない。すべての業務を生成AIに任せている」と発言した。
シーミアトコフスキは「AIは、われわれ人間が行うどんな仕事でもすでに実行できると考えている」とも述べている。
またKlarnaは今年初め、「700人のカスタマーサービス担当者をまるごとAIで置き換えた」と発表したほか、SalesforceやWorkdayといった企業向けソフトウェアを使わず、すべてAIに置き換えたと主張している。
率直に言って、これらは現状のAIを踏まえれば信じ難い。今日のAIの限界を理解しているなら、このような大言壮語は現実離れしていると感じるだろう。
組織のあらゆる職能であらゆる人間をAIエージェントに置き換えるには、汎用的な人間レベルのAI(AGI)の完成が前提となる。現状の最先端スタートアップがようやく取り組んでいるのは、営業の一部タスクやカスタマーサービスの部分的自動化のように、非常に狭く限定された業務であり、そこですらまだ万全とは言い難い段階にある。
なぜKlarnaは、ここまで誇張したAI活用を喧伝するのか。
答えは明白で、同社が2025年前半に予定しているIPO(新規株式公開)のためだ。説得力のある「AIストーリー」は、投資家を惹きつけるうえで欠かせない。Klarnaは2022年に2億4100万ドル(約378億2000万円)の赤字を出しており、まだ利益体質が確立していない。AIの活用によって大幅なコスト削減が実現し、黒字転換が早まるという期待を株式市場にアピールしたいのだろう。
もちろん、Klarnaに限らず世界中の企業が今後AIから大きな生産性向上を得ることは間違いない。しかし、人間の仕事を完全にAIに置き換えるには、技術面・製品面・組織面で多数の課題を克服しなければならない。Klarnaのように極端な宣伝をすることは、AI分野で実際に起こっている粘り強い進歩を誤解させる面がある。