経営・戦略

2025.01.08 13:30

「市場は80億人」マンガで狙うコミックスマートの第2章

佐藤光紀|コミックスマート

佐藤光紀|コミックスマート

11月25日発売のForbes JAPAN2025年1月号の特集「日本の起業家ランキング2025」でTOP20に選出された、コミックスマートの佐藤光紀。

一般的に起業家は何もないところからスタートする。そういった意味で、長きにわたって上場企業のトップを務めていた佐藤光紀は特殊な存在だといえる。

2024年3月、デジタルマーケティング事業大手のセプテーニ・ホールディングス(HD)は、マンガやアニメなどエンタメのIP(知的財産)事業を手がけるグループ会社コミックスマートの発行済株式56.8%をベンチャーキャピタル3社に譲渡した。コミックスマートの代表であった佐藤はスピンオフを通じて、スタートアップ起業家に転じ、新たな挑戦が始まったのだ。

事業をつくる楽しさ

コミックスマートの創業は13年。セプテーニHD社長だった佐藤が新規事業として自らスタートさせたという点から、この事業への思い入れが見え隠れする。当時は、ちょうどスマートフォンが世の中に普及してきた時期で、まだマンガコンテンツは紙が主力。市場の先を見越し、アプリ「GANMA!」の運営を主軸に、コンテンツ制作を含めたIP事業へ参入した。

運営開始以来、11年間で「GANMA!」の累計ダウンロード数は1800万超え。単行本化された『山田くんとLv999の恋をする』の累計発行部数が550万部を超えるなどヒット作を生みだし、着実に実績を上げてきた。

そして株式譲渡とセプテーニHD代表の退任を機に、佐藤はコミックスマートに傾注することに決めた。「もともと事業を立ち上げて育てていくことがいちばん楽しく、ライフワークでもあるので、今後は起業家としての人生に集中したい」と語る。「上場企業の事業であるメリットも当然ありますが、一方で四半期決算など短期業績への制約も多い。今後を考えるとスピンオフしてリスクを取ったほうがより成長力を発揮でき、決断のスピードも上がる」

どっぷりとコミックスマートの経営にかかわることで、攻めを強化したい考えだ。24年8月には、シリーズAで総額28億円の資金調達も実施した。

「創業からこれまでを物語風にいう“Chapter 1(第1章)”だとすれば、これから10年の“Chapter 2”は、マンガ、アニメ、スマホに適したタテ型マンガのウェブトゥーンの3つに特化したIPプラットフォーム事業に注力していく」

マンガを原作にするIPが出発点となって、映像やアニメ、ゲームやイベント、グッズなどあらゆるエンターテイメントの形で、IPの価値が360度広がっていくことを佐藤は望む。そのために、「GANMA!」や自社アニメスタジオ「Qzil.la」といったプラットフォームを生かして横断的にIPを開発・育成し、収益を最大化させる成長戦略を描く。

エンタメ系のIP事業は日本のお家芸であり、海外展開にも余念がない。『山田くんとLv999の恋をする』は、すでにテレビアニメ化され国内外で配信。米国とフランスでは、単行本も出版されている。

「我々の事業は自国に閉じていないのも魅力で、市場は地球上にいる80億人だといえます。そういう意味でも可能性を感じていますし、コンテンツを通じて誰かを勇気づけられたり、感動してもらったりできれば幸せなこと」。佐藤の経営者としてのChapter 2も始まったばかりだ。

文=古賀寛明 写真=ヤン・ブース

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