DXは進んでいるのか? その取り組みは革新的なのか?─── デジタル時代の発想とリーダーシップを再定義した、特筆すべき回答が揃う。
歴史ある印刷会社は存続の危機どころか最高益を更新。先手を打ち、生まれ変わり続けたその土台にテクノロジーとDXがある。
昨今の国内出版業界の縮小傾向が続けば、大日本印刷(以下DNP)という歴史ある大企業でさえ、発展の土台となった出版印刷事業だけでは立ちゆかなくなる。しかしDNPは戦後1950年代に「第二の創業」として、印刷技術を応用して包装、建材、エレクトロニクスなど多分野へ事業を広げた。今やエレクトロニクス事業が営業利益の大半を占める。
「DXが注目されるはるか前から、当社は変革を続けてきました」と、DNPの情報システム本部を統括し、DX推進の中核を担う佐古都江は語る。そして現在、「第三の創業」に取り組むなかで、2024年4~9月期の連結決算で過去最高益を出した。
「第二の創業では得意先のニーズに応じ事業を拡大しましたが、第三の創業では加えて主体的に課題を見出し、価値を創出する業態転換を目指しています」
受注型から提案型へ、黒子を自負していたDNPが表舞台で演者に。その転換を支えるのがDXだ。「当社は印刷技術と情報技術を強みとしています。DXによってP(Printing)とI(Information)を融合し、P&Iイノベーションを実現したい」
社員を変えた「データの民主化」
精密なコーティング、パターン形成など印刷で培った技術はエレクトロニクス分野に、情報処理技術はICカードなど金融向けサービスやセキュリティ分野にそれぞれ応用されてきた。佐古はそれらの利活用を進めるため、これまで社内に700以上も存在した大規模基幹システムをわずか8カ月でクラウド化し、データマネジメント基盤として整備した。成果も出てきた。ある工場の技術部門では、製造機械や品目別の材料、素材ロスのデータを分析し、廃棄物の発生を抑え歩留まりを改善。別の工場では、データ分析で明らかになった用紙と機械の相性に基づき、最適な用紙調達を実現した。「社員が自律的にデータマネジメント基盤を使いこなす姿を目の当たりにしてデータの民主化が進展した手応えを感じました」
DNPでは、社員一人ひとりのDXスキル向上のため、DXリテラシー教育を展開している。2023年度末で基礎編のeラーニングを2万4408人が修了し、2025年度末までに対象社員2万7500人の受講完了を目指している。エレクトロニクス事業が好調でも今なお経営層は存続の危機を感じているという。だが不安にとらわれているわけではない。
「社長はじめ私も社員にくり返し『失敗を恐れず挑戦してほしい』とメッセージを発しています。すべての社員に挑戦する文化を醸成したいですね」「限られた社員やエンジニアだけでなく、すべての社員が必要なデータにアクセスして利用できるように可視化・分析ツールを提供し、生成AIを業務で利用できる環境も構築しました」
佐古都江◎1990年大日本札幌アイ・エス・ディーに入社。2012年DNP情報システムの執行役員兼IPSシステム開発本部長、20年大日本印刷の情報イノベーション事業部 副本部長、21年インテリジェント ウェイブの取締役兼執行役を経て現職。