DXは進んでいるのか? その取り組みは革新的なのか?─── デジタル時代の発想とリーダーシップを再定義した、特筆すべき回答が揃う。
無限という名前の通り、DXの可能性へ人々を導く若きリーダー。実績を積み上げ社内外で同士を増やし、製造業全体の変革に挑む。
「ばかになって踊る。それを見て楽しそうだなと思って、人が集まってきてくれたらいい」。ダイハツ工業のDXを推進する太古無限はDX推進の鍵は仲間づくりにあると話す。小型車用エンジンの制御開発部門に在籍していた2017年、AIブームが到来しながら社内に導入機運が高まらないことに危機感をもち、部内の仲間3人と「機械学習WG(ワーキンググループ)」を立ち上げた。未知の活動を煙たがる社員もいたであろうなか、他部署に足しげく通って業務課題をヒアリングして回り、AIの利活用による解決アイデアを提案し、事例をつくっていった。
「製造現場は日ごろから秒単位の作業をし、『カイゼン』活動を実践してきているので、アナログでしかできなかったことがデジタルに置き換わることが改善につながれば受け入れやすかったし、改善のテーマとなる課題も多かった。最初は精度が低くてもテクノロジーの導入で現場の負担が減り、肝心な工程は人間が行うことで、よりダイハツらしいものづくりができる。小さな成功事例をつくっていくことで共感を生み、仲間を増やしていこうと考えました」
本当はDXのない組織が理想
太古はその後「ダイハツAIキャンプ」などの勉強会やデータ分析、複数の研修を開始。生産現場からコーポレート部門まで社内のあらゆる部門で事例を生み、全社にAI導入の波を広げていった。当初DXに消極的だった工場も、先行導入した別の工場で実績をあげたと知れば競争意識からAIを導入し、AGV(Automatic Guided Vehicle:無人搬送車)やアプリを内製、実装する工場もでるほどに進化した。ダイハツは2025年までに日常業務にAIを利活用し自ら課題解決できる人材を1000人育成することを目標に掲げる。現在、基準を満たしたのは520人ほど。再来年には達成可能だという。最終的には全社員がデジタル人材となることで「社内にDXの支援組織がなくなる」のが理想。太古は、デジタルスキル習得は病気に負けない体作りをする予防医学のようなものだと話す。
「自動車業界は変革の渦中にあります。現場で油にまみれモノをつくっている人たちもデジタル化に対応しなくてはいけないし、事業の変化に困らないように、全員をテックで明るい世界へ連れていきたい」
データサイエンティストのコミュニティ「関西kaggler会」を創設するなど活動は社外にも広がり、異業種の同志たちともつながるようになった。
「動かないと何も始まらない。DXはゴールがないので圧倒的な情熱と行動力がないとうまくいかない。僕自身も答えが何かはわかっていません。アイデアを100個思いついたら、全部やりたい。僕自身がものづくりが好きで製造業全体を良くしたいということに尽きるんです」
太古無限◎1984年生まれ。東京理科大学理工学部を卒業後、2007年ダイハツ工業に入社。エンジン制御開発を担当した後、20年DX推進室に異動。東京LABOデータサイエンスグループのリーダーに就任。24年より現職。