DXは進んでいるのか? その取り組みは革新的なのか?─── デジタル時代の発想とリーダーシップを再定義した、特筆すべき回答が揃う。
商品を置くだけで精算。そのシステムはひとつの事例にすぎない。業務変革に必要なテクノロジーは何かを問い続けるリーダー。
丹原崇宏は、1984年に開業した広島市中区のユニクロ第1号店に思いをはせる。
「当時、柳井をはじめ、スタッフ全員がお客様の一挙手一投足をものすごく観察していたんじゃないかと想像するんです。手に取ってくれたけど買ってくれない、商品にこんなクレームがきた、どうやったら買いやすい売り場になるのか? 40年前の一店舗でやっていたことを今も実践しているし、事業規模が拡大しても、世界の全店舗でやりたい。これはデジタルなくして絶対にできない」
2024年、売り上げが前年比12.2%増の3兆1038億円と初めて3兆円を突破した。今後、約10年で売り上げ10兆円を目指す方針を示している。3兆円の大台を超えたことに、丹原は「デジタル施策が一定の寄与を果たしたことは間違いない。さらに強化する必要があり、これからも積極的に投資をしていく」という。
成功するまで徹底的に実行する
「情報製造小売業」を同社はゴールに掲げている。これは、あらゆる「情報」を起点に、商品企画から、生産、物流、販売までの全プロセスを最適化することで、消費者に必要な商品を必要なときに届けるというもの。丹原も参画し、17年に実装したRFIDは直近の象徴的なひとつの事例だ。商品タグのID情報を非接触で読み取るシステムにより、レジ横のスペースに商品を置くだけで精算がスムースに進む。また、棚卸しや検品といったバックヤードを含むサプライチェーン全体の商流にも大きく寄与した。「初期のRFIDは読み取ってほしい情報を読み取らず、事前に考えていたことはほぼ機能しませんでした。店舗での業務実践をしては失敗し、スタッフたちと議論しながら改善を重ねて今がある。新しい別のテクノロジーが登場し一気に陳腐化することもあり得た。『よく成功しましたね』と言われますが、『成功するまでやった』というのが真実です」
当時30代前半で全世界の新しい共通プラットフォームを任された丹原は、現在、テクノロジー領域全体を俯瞰する。現場の実行を重んじるファーストリテイリングの精神とテクノロジーをいかに昇華していくかを考えている。
「柳井はかなり昔からデジタルの力を信じていて、IT部門は現場よりも現場を知ったうえで業務変革を推進しなければならない、と言われてきました。システムを入れることだけを考えると必ず失敗する。ソフトウェアエンジニアやアーキテクト、データエンジニアまでもが現場に入り込み、業務の本質を理解しなければなりません。私はリーダーとして、業務とそれを支えるデジタルは何のためにあるのかという一貫した姿勢を大事にしています。ファーストリテイリングが重視しているのは『現場・現物・現実』に基づく実践です」
丹原崇宏◎2004年、筑波大学大学院環境科学研究科を修了。NTTデータにて開発・コンサルティングに従事。その後、岡山市役所勤務を経て12年にファーストリテイリング入社。 2019年1月より現職。ロンドンを拠点に同社のDXをリードする。