ケナガマンモスやフクロオオカミといった絶滅種の復活はワクワクする話だが、遺伝子研究はそれ以上に多くの可能性を秘めている。
実際、香港大学とロンドン大学クイーン・メアリー(ロンドン大学群を構成する英国の公立大学)の科学者たちは、これまで考えられなかったことを成し遂げた。マウスの遺伝子を「古代の遺伝子」と置き換えてマウスの幹細胞をつくり、そしてその幹細胞から生きたマウスをつくり出したのだ。
これが実現したのは、単細胞生物である襟鞭毛虫(えりべんもうちゅう)のおかげだ。この単細胞生物が持つ「古代の遺伝子」が、多細胞生物の起源に新たな光を当てた。
(ほぼ)ゼロからマウスをつくる方法
『Nature Communications』に2024年11月14日付で発表された画期的な研究では、襟鞭毛虫の遺伝的潜在能力を引き出し、生きた組織を生み出すことができるマウスの幹細胞をつくった。襟鞭毛虫は単細胞生物だが、集合体を形成する種もあり、現存する単細胞動物の中では、多細胞動物に最も近い。この偉業の鍵となったのは、襟鞭毛虫のゲノムに存在する2つの転写因子「Sox」と「POU」の発見だ(転写因子とは、DNAに結合して遺伝子の活性を調節するタンパク質)。これらの因子は、哺乳動物の多能性、つまり、幹細胞があらゆるタイプの細胞に変化する能力を促すことが知られている。
2012年にノーベル賞を受賞した山中伸弥京都大学教授の研究において、Sox2やOct4(POU遺伝子)を含む4つの主要因子を発現させることで、分化した細胞を幹細胞に再プログラムできることがすでに示されていた。研究チームはこの概念をさらに推し進め、マウス細胞に存在するSox2遺伝子を、襟鞭毛虫のものに置き換えることで、これらの古代遺伝子が多能性を誘導できることを実証した。
結果は驚くべきものだった。
再プログラムされた細胞をマウスの胚に注入すると、ドナー胚と、再プログラムされた幹細胞の両方から身体的特徴を受け継いだキメラマウスが誕生した。被毛の黒いぶちと黒い目がこの遺伝子導入の目印で、襟鞭毛虫由来のSox遺伝子が、哺乳類の幹細胞遺伝子の機能を再現できることを証明している。
襟鞭毛虫は、自然界の遺伝子タイムカプセル
襟鞭毛虫は、ただの単細胞生物ではない。多細胞生物よりも古い遺伝子ツールキットを持つ「生きた保管所」だ。現存する単細胞生物の中で、多細胞動物に最も近い襟鞭毛虫のゲノムには、細胞の挙動制御に重要な役割を果たすSox遺伝子とPOU遺伝子が存在する。これらの遺伝子は、遺伝子制御やDNA結合といった複雑な細胞過程を可能にする。これらの過程は、多細胞の発達にとって不可欠だ。襟鞭毛虫は幹細胞を持たないが、そのSox遺伝子は、基本的な細胞機能を管理するために進化した可能性が高い。