経営・戦略

2024.12.31 15:00

シンガポールで成り上がった富豪の世界で勝つブランド戦略

ショッピングモール内にあるTWGティーの店舗( Nora Tam / South China Morning Post / Getty Images)

プレミアがつく「シンガポールの不動産」というブランドを生かす

長く不動産投資に携わってきたロン・シムが自身のV3グループ傘下のV3アセットを通じて保有する最も特筆すべき資産は、シンガポールの不動産開発会社ペレニアル・ホールディングスの持ち株15%だ。シムは同社を、パーム油事業でビリオネアとなったクオック・クーンホンと、ペレニアルの会長兼CEOを務めるプア・セクグアンと共同で所有している。2020年に上場を廃止し、非公開企業となったペレニアルは、高層ビル群が描くシンガポールのスカイラインを変えそうな、複数の大型開発事業を推し進めている。
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シンガポールの政府系投資ファンド、テマセクの本社ビルだったテマセク・タワーが取り壊された跡地では、ペレニアルによる63階建てのスカイウォーターズの建設が速やかに進められている。これは多目的オフィス、ホテル、住宅からなる複合ビルで、CBD(中央商業地区)であるラッフルズ・プレイスの端に位置する。スキッドモア・オーウィングズ・アンド・メリルが設計を手がけた高さ305m超の同ビルは、28年の完成時には“ライオンシティ”ことシンガポールでも随一高層タワービルになる。

スカイウォーターズの住宅部分の先行販売は24年のうちに開始される予定であり、V3グループの会長であるシムは、価格上昇を抑制する政府の取り組みによってシンガポール不動産への需要が軟化するなかでも、この物件の売れ行きを信じて疑わない。

「経済が成長している限り大丈夫です。シンガポールの不動産というブランドには、それだけのプレミアがつきますから」(シム)
 
ペレニアルは1973年に落成したビンテージビル、ゴールデン・マイル・コンプレックスの再開発も準備している。こちらは、ビリオネアのロバートとフィリップのウン兄弟が経営権を握るファーイースト・オーガニゼーションとシノ・ランドと組んでいる。
 
一方で、ペレニアルは23年、7200万SGDの入札を勝ち取り、シンガポールでは自社初となる高齢者介護施設を北東部郊外のセラングーンに計画中。中国で同様の施設を運営してきた経験を基盤にした事業だ。ペレニアルの純利益は23年、前年の3倍を超える2900万SGDとなっており、収益も25%増の2億100万SGDだった。

V3 Group Limited◎シンガポールを拠点とする持ち株会社。高級グルメ、不動産、ヘルスケアサービスなど多様なポートフォリオを有している。ロン・シムによって2017年、正式に設立。V3はVision Threeの略で、グループの特質と3つの部門、V3ブランド、V3アセット、V3キャピタルを指す。19年にKKRが資本参加。21年、バシャコーヒー、TWGを傘下に収めた。
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ロン・シム◎V3グループの創業者兼会長。1979年に高校をやめ、R・シム・トレーディングを設立し、家電製品の販売を始めた。83年にオシム(OSIM)と改称。マッサージチェアなど健康機器の販売で世界市場に進出、財をなした。2017年にV3グループを設立。世界26カ国で多様なビジネス発展および拡大に邁進している。

タハ・ブクティブ◎V3グループのなかでも、成長が有望視されているバシャコーヒー、TWGを擁するV3グルメの社長兼CEOを務めるフランス系モロッコ人。TWGティーの共同創業者。モロッコのダール・エル・バシャ宮殿が博物館として再開した後、国王にカフェ開設を求められ、19年にバシャコーヒーをスタート。世界展開した。

文=ジョナサン・ブルゴス 写真=ムンスター・チョン 翻訳=木村理恵 編集=森 裕子

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