より成長が期待できるコーヒーとお茶
しかし、シムがより大きな期待を寄せているのはコーヒーとお茶の事業だ。東京の調査会社グローバルインフォメーションによると、どちらも飲料業界では特に急成長中の分野で、その収益は24年に6%増の1260億ドルになると予想されており、28年には1590億ドルに届く勢いだという。コーヒーとお茶の需要の増大は、消費者のより健康的な飲料への志向の高まりにあるかもしれないと、未公開株投資会社ピークフィフティーン・パートナーズのマネージングディレクター、ローヒット・アガルワルは指摘する。同社はインドネシアのコーヒーチェーンのユニコーン企業、コピ・クナンガンに投資している。24年8月、バシャは新しいコーヒー加工工場をモロッコに竣工した。その規模はシンガポールにある既存施設の8倍だ。1000万ドル以上を費やし、1000平方メートルの敷地に建設された新工場は、バシャの欧州と中東で継続する事業拡大と、25年に計画されている米国市場への参入を支えることができるものだとブクティブは語る。また、24年中にパリのシャンゼリゼ通りに広さ1500平方メートルの店舗の開店も予定されている。
「マラケシュの店舗には、フランスからもお客様がいらっしゃっていますので」(ブクティブ)
バシャの姉妹ブランドであるTWGの業績も“沸騰”している。規制当局への提出書類によると、23年の純利益は前年比8%増の400万SGDで、収益は63%増の1億3200万SGDまで跳ね上がった。シムが初めてTWGに投資したのは08年のことで、お茶が自身のマッサージチェアを購入する顧客層に響くと予測したためだった。3年後に経営権を獲得すると、もうひとりの共同創業者と裁判沙汰になったが、最終的には勝訴。TWGの店舗は、11年には10店舗だったが、現在18カ国で79軒の直営店を展開している。シムはTWGも100店舗まで増やすつもりでいる。
65歳になっても、シムにペースを落とす気はない。
「私はまだまだハングリーです。ビジネスをもっと大きくしたいのです」(シム)
3人の子どもは全員が事業にかかわっており、仕事の要領を学ばせ、いつか事業を引き継がせるために仕込んでいるところだが、シムが近い将来に引退する予定は一切なく、「引退したら何をしますかねえ」と軽口をたたくほどだ。出資者であるKKRは、シムに長期的な投資をしている。前出のクマールは、彼らはバシャとTWGによる成長の機会に熱中していると話す。
「我々は長期資本を提供しています。そのおかげで、適切な時点でイグジットするチャンスを手にしているのです」
V3の上場は、現時点では考えていないとシムは言う。これまでも、18年には市場の変動性を理由に、進めていたV3ブランズの香港証券取引所へのIPOを撤回し、未公開株取引を選択したという経緯がある。その4年後にも、仮目論見書は提出したものの、参考評価額が期待に見合わなかったといって、再び上場を延期。現在は、ビジネスの構築に専念していると主張する。
「我々のすべてのブランドが成長しています」