彼にとって、20歳から3年間にわたるカナダでの留学経験が大きかった。カナダの山頂で地球の景色を見た今井さんはこの素晴らしい環境を残したいという思いから、林業の道に進んだという。
今井さんはチェーンソー競技会の意義を次のように話してくれた。
「これまでの林業は良くも悪くも村社会にどっぷり浸かっていた。都道府県を超えた参加者の集まるチェーンソー競技会は視野を大きく広げ、信頼できる仲間を全国に作ることで林業の発展にも貢献できる」
その活動範囲は国内にとどまらず年に2回は世界に出ており、今年はベルギーの仲間に誘われ、ヨーロッパの大会にも出場した。
「ヨーロッパと日本では、林業の位置づけは違うと思うが、文化の違いも感じる。ヨーロッパは山や自然をコントロールするものと考えているので、そのための研究がとても進んでいる。一方、日本では山は古くから信仰、神の領域と考えられており、富士山は明治時代になるまで女人禁制だったりもした。私は日本の考え方が好きだが、地域による違いを理解し、お互いを認め合っていくことで良い関係が構築できる。チェーンソーを通じて世界中が仲良くなれると思っている」
今井さんは、特殊伐採といわれる神社や民家の生活に支障をきたす高樹齢の木々をロープやクレーンを使い、安全に伐ったり、山の手入れや公共工事に伴う樹木の伐採を請け負うことで生計を立てているが、講師としても全国をまわっている。全国的に林業の人材育成機関ができており、教壇に立って技術を伝えることにも力を入れている。彼の講義は少しユニークだ。
講義では、当然、競技会で培ったチェーンソーの技術を教えるのだが、座学ではもう少し違うことも話しているという。
「なぜ、木は倒れるのか?」
「なぜ、チェーンソーの刃で木が切れるのか?」
さて、皆さんなら何と答えるだろう?
このような話を導入するのには訳がある。
多くの人は勤勉で、教えればそれを覚えようと努力はするが、人に教えられた知識だけでは自然は相手にできない。山の斜度や方角、その日の風向きや木の癖、近くの木との絡み具合など、基本はあっても同じシチュエーションは存在しない。
そういった環境で最適解を考えられないと自分の命が危険にさらされるだけでなく、一緒にいる仲間を巻き込んでしまう可能性もある。他の業種にも通じる部分はあると思うが、対応力や想像力を育てていかないと明日にでも命を落としてしまうかもしれないからだ。
林業の世界では毎年、約40人(就業者以外も含む)が亡くなっている。その半分近くが伐倒絡みで、チェーンソーで自分を傷つけてしまう、他にも倒木によって命を落とすケースもある。
[各業種の死傷年千人率(休業4日以上)の推移]
「生きている木を相手にするということは、自然を相手にするのと同じこと」。今井さんは競技会を通じて、チェーンソーによって自傷するリスクを減らすのに貢献すると同時に、講義を通じて大自然を相手にするための知識、対応力などを伝える役割を担っているのである。


