経営・戦略

2024.12.31 10:00

世界の超富裕層向け「豪華ヨット」メーカーがアジアに期待する理由

ダーメングループの高級ヨット(Shutterstock.com)

ダーメングループの高級ヨット(Shutterstock.com)

オランダに本拠を置く造船企業ダーメングループの高級ヨット部門を率いるローズ・ダーメンは、今後の成長をアジア市場に託している。1927年創業の同グループの3代目の後継者である彼女は、世界の超富裕層が資産運用のためのファミリーオフィスを構えるシンガポールに注目している。

しかし、この業界に加わる前のローズが金融業界で学んだことの1つは、造船ビジネスは、それほど儲かるものではないということだという。高級ヨット部門のマネージングディレクターを務める彼女によれば、多くの在庫を抱える造船ビジネスの利益率は通常1桁台で、一部の高級品メーカーのような2桁台の利益率は期待できないという。

「なるべく早くフォーブスの富豪ランキングに載りたい人は、造船業に関わるのは避けたほうがいいでしょう」と、ローズは11月にバンコクで開催されたフォーブス・グローバルCEOカンファレンスのインタビューで語った。

とはいうものの、ダーメン家は欧州最大級の家族経営の造船企業として巨額の富を築いてきた。ローズの父のコマー・ダーメンは、作業船の建造に標準化とモジュラー製造という自動車業界の手法を導入することで納期を短縮して生産コストを削減し、この分野で数少ないビリオネアの仲間入りを果たした。

同社の高級ヨット部門を率いるローズは、父が考案した造船の原則を受け継ぎ、平均的な納期が3年とされるこの分野で、最短6カ月という業界最速の納期を実現したと述べている。彼女は、この優位性を活かしてアジア市場でのさらなる拡大を目指している。

受注残高が約10億ユーロ(約1650億円)のダーメンの事業に占めるアジア市場の割合は、パンデミック前には約20%だったが、彼女はそれを今後の3~5年で25%に引き上げることを目標としている。

「私たちの高級ヨットのサイズや装備は、アジア市場にとても適しています。当社は、すばらしいヨットに優れたサービスとクルーを組み合わせて顧客に提供するのです」とローズは述べている。

高級ヨット部門は、最低価格が7500万ユーロ(約120億円)のAmels(アメルズ)と呼ばれる内装のカスタマイズが可能な全長60~80メートルの豪華ヨットを専門としている。同社はまた、長距離航行用のエクスペディションヨットや、追加の物資を運ぶためのサポート船も製造している。ローズによれば、2023年の高級ヨット部門の売上高は、総額31億ユーロ(約51000億円)のダーメン造船所の売上高の15%以上を占めていた。

彼女は、アジアで同社の高級ヨットの潜在的な顧客数が最も多い市場がシンガポールだと考えている。このアジアの金融ハブは近年、税制優遇措置やビジネスに優しい規制環境で、世界の超富裕層を魅了している。

シンガポール金融管理局によれば、同国のシングルファミリーオフィスの数は過去4年間で4倍以上に増加し、2023年8月時点で1650社に達していた。同国にファミリーオフィスを置く富豪の中には、グーグルの共同創業者のセルゲイ・ブリンやアジア一の富豪のムケシュ・アンバニらが含まれている。

ダーメンが家族経営の会社であるという事実は、多くのアジアの顧客に信頼感を与えているとローズは語る。アジアの顧客の多くもまた家族経営のビジネスのオーナーたちだからだ。

「世界の超富裕層は、おそらくターゲットとするのが最も難しい顧客層です。インスタグラムに広告を出せばいいというジャンルではありません。口コミや、長期的な関係がブランド以上に重要なのです」とローズは語った。

forbes.com 原文

編集=上田裕資

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