【重要なお知らせ:当社を装った偽サイトにご注意ください】

スタートアップ

2025.01.23 16:15

AIと国家戦略:日本が基盤モデル構築を再考すべき理由

エンジニアのジレンマ:性能重視か国産重視か

政府による国産モデルの推進や助成金があったとしても、エンジニアが選ぶのは自分たちのニーズに最も合ったツールであり、そのツールの生産国がどこかはあまり重視されない傾向があります。実際、日本ではすでにOpenAIやGoogle、Anthropic、Metaなどの世界的な大手企業のモデルが圧倒的に多く使用されています。これらのAIモデルは、国産モデルと比べて性能が優れている上に、頻繁にアップデートが提供され、コストも低いためです。

かといって、規制によってエンジニアに国産モデルの使用を強制すれば、日本の企業がグローバル市場での競争力を失い、裏目に出る結果となる可能性があります。「国の独立性」と「経済的競争力」とのトレードオフが非常に大きいのです。ほとんどの国には、自国の企業を不利な立場に追い込んでまで、最先端技術の利用を規制する余裕はありません。

こうした状況から、AIは地政学的にも新たな次元の緊張関係をもたらしています。各国は、他国への経済的依存に加え、これらのプラットフォームが国際的な世論や貿易、国家運営に与える影響にも対処しなければならなくなっています。一部の国では規制や制限を試みる動きも見られ、外国のテック企業の影響力に対する懸念が世界中で高まっています。

しかし、GoogleやFacebook、WeChatのような大手プラットフォームに代わるものを国内で作るのは、先進国にとっても大変なことです。テクノロジーの急速な進化や高い開発コスト、そして熾烈な競争が壁となり、国産プラットフォームを維持することは非常に難しくなっています。そのため、ほとんどの国が外国で開発されたプラットフォームやAIに、少なくとも部分的に依存せざるを得ないのが現状です。

これらの外国製プラットフォームの運用を、政府が規制することは可能かもしれません。例えば、倫理基準の遵守やバイアスへの対処を義務付けることなどです。しかし、これにはさまざまな影響を考慮した慎重な対応が必要です。すでにクラウドインフラに関しては、データセンターをサービス対象国内に設置することが求められている場合があります。また、特定の業界や用途においては、規制により国産モデルの使用が義務付けられていることもあります。しかし、外国のプラットフォームへのアクセスを全面的に制限した場合はどうでしょうか。国産かどうかよりも性能やグローバルな接続性を優先する必要がある国内ユーザーを不利な状況に追い込み、競争力を低下させる結果となるかもしれません。


日本が世界トップクラスの基盤モデルを開発するというアイデアは魅力的ですが、現状では非現実的です。世界のAI競争はすでに米国と中国に大きく傾いており、その構造的な優位性を覆すのは非常に困難です。GPTなどの基盤モデルに匹敵するものを国内で開発することよりも、日本がすでに競争優位にあるロボティクスや製造業といった特定の産業に特化したAIイノベーションを促進することに重点を置いたほうが、より大きな成果を得られるかもしれません。

実際、日本が世界レベルで強みを発揮できる隣接産業は数多く存在します。例えば、AIのエネルギー消費量は、ネットゼロ排出量達成に向けた取り組みの中で大きな課題となっています。その解決策となり得る核融合核分裂は、原子力工学と先進製造技術における非常に専門的な知識を要しますが、いずれも日本が強みを持つ分野です。また、半導体電池技術ロボティクスも、遅れが見られつつあるものの、日本が依然として競争力を発揮できる分野であり、積極的に取り組む余地があります。

最終的に、日本の戦略は、グローバル・プラットフォームとの適切な統合を前提にしたものでなければなりません。競争力を損なうことなく、国の独立性を保てるような効果的な規制を設けることも重要です。政府は、すべての国が独自の基盤モデルを開発できるわけではなく、また開発すべきでもないことを認識しなければなりません。むしろ、既存のテクノロジーを活用し、日本がグローバルな舞台で競争力を持てる分野に注力したほうが、国益に貢献する結果へとつながるでしょう。

連載:VCのインサイト
過去記事はこちら>>

文=James Riney

続きを読むには、会員登録(無料)が必要です

無料会員に登録すると、すべての記事が読み放題。
著者フォローなど便利な機能、限定プレゼントのご案内も!

会員の方はログイン

ForbesBrandVoice

人気記事