とはいえ、釣りタイトルだったかどうかは別として、彼の主張には一理あります。 スタートアップ業界全体の傾向として「小さく考えすぎている」のは事実です。多くのプロジェクトは、既存のプロダクトを少し改良したり、ちょっとした変化を加える程度のマイナーチェンジにとどまっています。しかし、本当に意義のあるスタートアップというのは、世界を変え、莫大な価値を生み出すものです。そのためには「月に届くほどのホームラン」、つまり「ムーンショット」を狙うべきなのです。
Coral Capitalではこれまでに何千ものスタートアップ企業を見てきましたが、その経験から確かに言えることが1つあります。それは、ほかと一線を画し、私たちを最もワクワクさせるのは、「一見、解決不可能に見える問題に取り組む企業」であるということです。まさに唯一無二の「N=1」の企業です。 写真共有サービスやセールステックのような既存の分野ではなく、不妊治療やがんの克服、あるいは交通手段の革命といった革新的なプロジェクトに挑戦している企業にこそ、私たちは惹かれます。
「リーンスタートアップ」の理論は、その狙いは良いものの、結果として「小さく考えすぎる」世代の起業家や投資家を生み出してしまいました。最低限のプロダクトを作り、短期間で開発サイクルを回すことが起業家の間で主流となってしまったのです。この手法はアイデアを試す上では効果的かもしれませんが、長期的に考える上では全く不向きです。私たちは「フェイルファスト」に捉われすぎて、大きな夢を描くことを忘れてしまったのかもしれません。山田真央さんはこれを日本特有の問題と考えているようですが、実はこの傾向は米国でも広がっています。実際、Founders Fundの代表作『Manifesto』や『Choose Good Quests』が書かれたのは、この「小さく考える」傾向に問題提起するためでした。ただ、日本ではスタートアップ企業が比較的早期に上場できるため、小規模な成功で安定した利益をあげることが可能であり、「一塁打」レベルのビジョンに甘んじる傾向が一層強まっているというのはあります。