慶大生に聞いてみた
100年後には人口が約3割になる日本という国にとって*、Z世代の若者はだれひとりとして無駄にできない、いわば国家資源そのものである。彼らひとりひとりが、自分の能力をのばしながら、幸せに人生の時間を紡いでいくにはどうしたらいいのだろうか。*国立社会保障人口問題研究所 出生低位・死亡中位推計
慶大生と話をしていると、実に9割以上が、自分は自己評価が低いかもしれないと述べていた。
筆者:「イタリア人は自分の得意分野や好きなことを仕事にしようと考えますが、それは日本でも実現可能なことでしょうか?」
結論から言うと、自分の好きなことを仕事にするという発想自体が、欧米の若者よりもはるかに希薄なようである。筆者の講義を取っている慶大生5人のコメントを引用しよう。まずは就職活動中の学生Aは、こうボヤいていた。
学生A:「企業が求めてるのって、協調性があって、へんな自己主張とかせず、ちゃんと空気を読める奴じゃないですか。俺みたいな義理人情に厚くて、色々考えちゃう不器用なタイプは、イケてる企業はとらないですもん」
筆者:「そもそもイケてる企業とは?」
学生A:「なんとか商事とか、イケてる奴が行くところです」
この若者は、自分の考えや意見をしっかり持ち、深い洞察力のある優秀な学生だが、すでに大学3年生の時点でイケてないとかで自己評価が低いのである。そこでほかの学生にも聞いてみる。
筆者「イケてる奴ってどんな学生ですか?」
学生B:「そりゃあ、コンサルとか行く奴ですね」
コンサルタントという職種には、“何だかよくわからないけど、すごく稼げる、イケてる職業”という万能感あふれるイメージが先行している。なかには実家の飲食店を継ぐために目指すという学生や、投資資金の元本を稼ぎたいのでコンサルを目指すという学生もいた。ある授業では全体の実に3割以上が、コンサルタント志望者だったこともある。学生の多くは公私のインスタアカウントを2つ使い分け、自己アピールにも長けている。
そんな同級生たちのSNSを見て落ち込んでしまう学生もたくさんいる。
学生C:「疲れます。将来のこととか考えたくないです。GS(ゴールドマンサックス)とか、もう聞きたくないです。夜中に時給900円でバイトしてる自分ってなんなんだろうって。もうディズニーランドで生きていたいです」
筆者:「そうか。疲れたらディズニーランドなんですね」
学生C:「そうです。あそこはすべてを忘れさせてくれる夢の国なんです」
一方で彼らはデジタルネイティブ世代だけに、現実世界との境目に纏わる洞察や、SNSとの付き合い方にとくに特徴が見られる。一見見栄えのいいインフルエンサーたちには懐疑的で、YouTuberを含め、「へたに手を出さない方がいい仕事」という見方が主流である。
ただあくまでビジネスツールの一環としてならば、「海外へのアプローチ」という線でSNSは有用であるという意見は多い。そこにはデジタル世界から一歩引いた、Z世代のクレバーな距離感がある。たとえば演劇俳優をやりたいという学生Dはこう述べる。
学生D:「演劇における“商品”は私⾃⾝です。情報化社会においては、SNSを上手く活⽤し、国内外に自身のファンを増やしておくべきです。アメリカの市場規模は⽇本より広いのだから」