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I cover the intersection of economics and politics.

hadrian / Bigstock

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1990年の後半、強気一方の市場で、ゴールドマン・サックスのパートナー、デビッド・ヘンリーは、顧客にも職員にも同じように冷静に語ったものだった。ヘンリーの言うことを少し噛み砕けば、「株式資産を自分の家を見るのと同じように見てみなさい。家の価値を日々チェックすることがないのと同じように、株式の価値もいつもチェックするものではないのです。長期保有するなら短期の価格変動を気にする必要はありません」ということになる。

最近のアップル株の下落に関しても、ヘンリーの賢明なアドバイスを思い浮かべてもらえばいい。アップル株は今年の高値から⒕%以上も下落。先週のUSAトゥデー紙の分析によれば、昨年アップル株を買った平均的な投資家は「含み損」状態にあるという。

USAトゥデー紙の「含み損」という用語は、買えるだけの家を買おうと借金をした人々の住宅ローンが「含み損」であるとされた2008-2009年の苦い記憶を思い起こさせる。過熱した購入者たちは、住宅価格の下落で、実際の住まいの価値以上に高額な住宅ローンの支払いを迫られていたのだ。
 
政治家にとって投機的な住宅購入が、住宅価格の下落につながることは好ましくなかった。そこで、連邦政府は「住宅所有者」は救済、一方で住宅所有権がなきに等しいその他の投機的な買い手は、多額なローンを抱えて残りの人生を歩むことになったのだ。

アップル株の今後を予測することは不可能だが、少なくとも現状、損を被っている株主たちがいる。住宅の場合と同様、株を買うために借金をして、信用買いした人々もいるだろう。そんな人たちは今まさに、水面下(underwater、「含み損」とも訳す)に落ち込んでいるだろう。
 
アップル株の今後の動向を予想するのは難しい。しかし、仮に政府が、高値株を買って水面下に沈んだ人々に配慮して、調整局面にある市場の買い支えで救済するようなことになれば、それがどれ程、経済にとって好ましくないことか、ということを考えてみるのは無駄ではあるまい。株価は常に上ったり、下がったりするが、それは健全な経済現象なのだ。株価は資本がどこで必要とされているのか、どこで必要とされていないのか、さらには、全体として投資として何を避けるべきかをも示しているのだ。

調整のない株式市場は、株式市場でさえない。その上、このような非市場は経済成長をひどく阻害する。保護された市場に資本が滞留し、高い需要に向けて移動しなくなるからだ。強気市場があれば、弱気市場もなければいけない。株価が下がらないと、限られた資本が業績の悪い企業に留まり、成長が期待される良い企業に十分に行き渡らないことになる。

この話をアップルにあてはめてみると、株価の下落がアップルの革新的な最盛期が過ぎ去ったことを示しているのなら、株式市場がそれを知らせてくれたことに感謝しなくてはならない。気が付くのが早ければ、失われたり利用されなかったりする資本もそれだけ少なくなる。

資金は常に新しい行き先を探している。アップルの上昇相場が終われば、アップルに投じられていた資本は別の新しいビジネスへ向かう。成功するものも、低迷するものも、完全に失敗するものもあるだろう。たとえどんな結果となっても、どこに資本が必要かという新たな正確な情報を伝えてくれる投資によって、経済はうまく回っていくのだ。

アップル株の下落は単に一時的な現象なのかもしれない。そうであれば、含み損を抱えた株主の利益もすぐに戻るだろう。今の価格で押し目買いをすれば、再び上昇するかもしれないアップル株を割安に買い増すことができる。現在、アップル株を全く持っていない投資家にとっては、値ごろ感の出たアップル株を買えるチャンスだ。投資家が勝てば、経済も伸びる。
 
2008-2009年に住宅分野で起こったことに照らして考えてみよう。座って傍観していた人は、割引価格での住宅購入のチャンスを逃した。また、高値で買った人も、他人の陰に隠れて、自らの失敗からある程度は守られた。無節操な人を救済すれば、慎重な人に損害を与えることにはなるのだが。ただ、住宅は投資ではないということは強調したい。住宅は居住のための消費財で、購入者は長期にわたって所有する。購入者は短期的な住宅価格の変動を気にしない。ゴールドマンのヘンリーの含蓄ある言葉を思い出してもらいたい。

経済停滞の要因がまだ多く残っているのに、住宅市場の健全な価格調整を抑えようと、政治家が馬鹿げた決定をしたことについては、あまり語られていない。何度も言うが住宅は投資ではなく消費である。本来の住宅の価格調整は、過去もそして現在も資金が滞留している住宅分野からの資本の移動を促す、経済にとって好ましいことなのだ。徹底的な住宅価格の下落は、不動産から将来性のある分野へ資本を移動させる明確なサインとなったかもしれない。世界の終わりかのようにささやかれていた時期に大胆な底値買いをして、莫大な利益を上げた人もいたのだ。
 
アップル株は1997年に底値をつけている。その後は創業者のスティーブ・ジョブスが復活、株は何千にも分割される程、値上がりした。もし、2008年に自然な価格形成があれば、住宅市場はもっと健全なものになっていたし、その後の経済ブームも現在まで持続していたかもしれない。

残念ながら、株価が一気に反騰することは無いだろう。ただ、弱気の相場がなければ、強気相場もやって来ないことだけは確かだ。

翻訳編集=加藤雅之

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