マサチューセッツ総合病院医科の医師で、論文の上席著者であるアヌパム・B・ジェナは「タクシーや救急車の運転手の脳内で、海馬やその他の部位に神経学的変化が起こり、これがアルツハイマー病による死亡率を低下させている可能性を示唆する研究結果だ」と述べている。
ただし、今回の研究では、そのような神経学的変化が実際に生じているのかどうか、またその変化がアルツハイマー病の発症に関与しているかどうかは調査されていない。
ジェナは「これらの所見については最終的な結論ではなく、仮説の根拠として捉えている」とした上で「それでも、職業がアルツハイマー病による死亡リスクにどのように影響するか、そして、認知活動が予防につながる可能性があるかどうかを検討することの重要性を示唆するものだ」との見解を示した。
「興味深い」が限界もある研究
この研究結果の解釈について、他の専門家は慎重だ。英ロンドン大学ユニバーシティ・カレッジ(UCL)のロバート・ハワード教授(高齢者精神医学)は、タクシー運転手と救急車の運転手を研究対象に選んだ時点で、平均的な人と比べて脳機能がかなり低下しないとアルツハイマー病の症状が現れない可能性があると指摘。「こうした仕事で活躍している人はナビゲーション処理や空間認知に優れており、これは認知予備能が高いことを示している」と述べた。
認知予備能とは、病理学的にアルツハイマー病と診断できる病変が脳内にあっても認知症を発症せず、認知機能を保てる特性のことだ。
英国認知症研究所(UK DRI)でグループリーダーを務める英国神経科学協会(BNA)のタラ・スパイアスジョーンズ会長は、研究がもつ限界に特に注目する。「この研究では、タクシーと救急車の運転手の死亡年齢が64~67歳前後だったのに対し、その他の職業(の死亡年齢)は74歳だった。アルツハイマー病の一般的な発症年齢は65歳以上であるため、この研究には重大な限界がある。つまり、タクシー運転手や救急車の運転手が長生きした場合、アルツハイマー病を発症していた可能性があるということだ」