サイエンス

2024.12.26 17:00

傷つくと「他の個体と融合」するクシクラゲ、その特質が人の再生医療にもたらす大きな可能性

クシクラゲ(RLS Photo / Shutterstock.com)

この発見の裏づけを取るため、研究チームでは、この実験を条件を変えて10回繰り返し、同じような結果が得られるかを検証した。その結果、10回のうち9回で、2個体が融合することを確認した。

「自己」と「非自己」を区別しないクシクラゲ

クシクラゲは、自分以外の個体の組織を融合させるという、他の動物にない能力を備えている。これによってクシクラゲは、自他の境界線をほぼ消し去ってしまう。
advertisement

大半の動物にとって、自己と非自己の区別は生存に不可欠な概念だ。しかし、実験に使われたムネミオプシス・レイディのようなクシクラゲの場合は、この生体防御の仕組みなしでも生命体として機能しており、このルールの例外的存在となっている。

生物が、自らの組織を他の個体の組織と区別する「同種異個体識別 (allorecognition)」と呼ばれる能力は、多細胞生物の土台となっている。この能力は、動物界全般において、免疫系を支える基盤として機能している。病原体を追い払い、他個体の組織を拒絶し、身体的統一性を維持することができるのは、この能力のおかげだ。

クシクラゲにはこの機能が欠けているため、他個体の組織を攻撃したり拒絶したりすることはない。城倉氏の研究チームによって実施された、2個体を融合させる実験では、この特質が重大な役割を果たした。

クシクラゲは、「別の生存方法」を採用している

クシクラゲにおける同種異個体識別能力の欠如は、多細胞生物の進化について、非常に深遠な問いを投げかけるものだ。
advertisement

クシクラゲは進化的に最も初期に分岐した動物とされるが、仮に、クシクラゲの先祖にあたる太古の生物が、自己と非自己を区別する免疫系がなくても繁栄できたのなら、「免疫系は生き物の生存に不可欠なものだ」という、長らく信じられてきた通説に疑問が生じる可能性がある。つまり同種異個体識別は、多細胞生物にとって必須の機能ではなく、特定環境からの圧力や生物学的な脅威に対する、個別的な適応の形だった可能性もあるということだ。

さらに、クシクラゲの同種異個体識別能力の欠如は、科学研究における可能性に道を開くものだ。クシクラゲの細胞が、拒絶反応を示さずに他個体の組織を融合する仕組みを解き明かすことで、再生医療や臓器移植で画期的な新手法の発見につながるかもしれない。

forbes.com 原文

翻訳=長谷 睦/ガリレオ

タグ:

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事