厚生労働省は「睡眠必要量」を勘案して、6時間以上8時間未満を「十分な睡眠時間」と設定。短い睡眠を、高血圧、糖尿病、心疾患や、うつ病などの精神的健康に強く関連するとしている。政府の「健康日本21」の2023年調査によると、「ここ1カ月間、あなたは睡眠で休養が充分とれていますか」という問いに対して、勤労世代の20代から50代まですべての世代で、「休めている」「まあまあ休めている」が2009年から減少。一方、不十分な睡眠時間の勤労世代は2009年に39.51%だったが、2019年の段階で46.07%(その後の統計は未定だが、増えていると推測されている)と増加している。
「睡眠負債」という言葉が流行語大賞トップテンに選ばれたのが2017年。睡眠負債が認知症につながると指摘された後も、ますます睡眠時間は減っているのだ。なぜ日本人は寝る時間を削るのか?
実はアメリカ疾病予防管理センター(CDC)の調査によると、日本だけでなく、イギリス、アメリカ、カナダ、ドイツでも睡眠不足が指摘されている。米ランド研究所は主な原因を、スマホ依存など「24時間対応型社会」の生活様式に関係しているという。古くは、チェルノブイリ原発事故、スリーマイル島原発事故などの惨事から医療ミス、交通事故、労働生産性の低下なども、睡眠不足が関連していると言われている。
ここで興味深いケースを紹介したい。
「ぐっすり眠れなかったら全額返金」と謳い、8種類の枕を選べるなど、徹底して睡眠にこだわったサービスの追求で知られるビジネスホテルチェーン大手の「スーパーホテル」で起きた出来事だ。
国内外に172店舗を構えるスーパーホテルは、2024年3月期に売上高481億円を計上し、営業利益ともに過去最高を更新。Forbes JAPAN2024年9月号の特集「新・ブレイクスルーの法則」で、大躍進する企業の一つとして紹介された。ところが、である。
同ホテルは年に一度の支配人総会で講演会を開いた。登壇したのは、快眠コーチとして『超熟睡トレーニング』や『睡眠戦略』などの著書がある角谷リョウ氏。角谷は全国から集まった支配人たちに、WHOの「アテネ不眠尺度テスト」を行った。すると、なんと半数近くが「不眠症の疑いあり」と判定されたのだ。睡眠を売りにしているホテルの支配人が寝不足か! と、シャレにならない事実が発覚したのである。
このテストでわかったのは、日本人の典型である「不眠の自覚がない」人がほとんどだったこと。そこで角谷による改善がどのように行われたかをレポートしよう。