自覚がないワーカホリック
今回、登場してもらったのは、スーパーホテルpremier秋葉原の木村賢治支配人である。「木村支配人は、自覚なきワーカホリックあるある状態でした」と、角谷は言う。
木村支配人曰く、「私はイラストを描くのが好きで、お客様へのアンケートも手書きのイラスト付きで工夫したりしていると、ついつい夜中までやっていることが多かったのです」という。
ちなみに、日本の産業で「週60時間以上の残業をしている人の割合」が運輸業に次いで多いのが、宿泊業・飲食サービス業である。有給休暇取得率にいたっては、業種別で最低の49.1%(2022年)。客からの呼び出しなど予測できない事態が起こりやすいため、宿泊業はなかなかゆっくりと睡眠を取るのは難しいのだ。
改善するにあたり、角谷が強調したのは、「睡眠衛生」という概念である。
睡眠衛生は、大きく「環境」と「行動」にわけられる。添付した角谷の取材動画でもわかる通り、スーパーホテルは「睡眠衛生の環境から入眠に導く」流れをつくっている。
「熟睡に大事なのは室温よりも湿度」と角谷は言う。ホテルの部屋は乾燥しやすく、加湿器を設置したホテルは多い。一方、スーパーホテルは天井や壁に珪藻土を使用している。これは藻類が化石化した天然の堆積岩で、自然な湿度を保つ「調湿」作用がある。伝統的な日本家屋で使われてきたものだ。調湿だけでなく、防音、防カビ、抗菌性もある。
カーテンロールの遮光性、音を出さない冷蔵庫、アロマ、そして人気となっているのが「香り」であり、入眠を促す仕掛けだ。ただし、これはホテルという環境だから可能なのであり、「自宅の壁に珪藻土を使ってない」人が大半だろう。そこで重要になってくるのが睡眠衛生の概念である「行動」だ。体内時計を整えて生活習慣を変えることが代表的。例えば、スマホ依存という自覚がなくても、睡眠前についスマホやPCで調べ物をしたり、SNSをチェックする習慣がある人は多いだろう。熟睡の妨害になるとわかっていてもやってしまうが、角谷は「スマホを隣の部屋に置いたり、物理的に手元に置かないという習慣を身につけるだけでも、行動は変わる」と言う。
さらに「睡眠衛生の行動改善は、業界別にカスタマイズすることが大事」として、支配人向けプログラムを作成。「分割睡眠」や「ピアラーニング」という手法を使っていった。木村支配人はこう話す。
「夜は頭が冴えているので仕事をし続けるのですが、そうすると朝がダルい。眠りが浅かったのだと思います。それが朝のダルさがなくなり、お客様に対して、『ぐっすり』の重要性を説く際、自分自身がその大事さを理解したので想いが伝わるようになりました」
日本の睡眠に関する基礎研究は世界トップであり、筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構(WPI-IIIS)の研究はノーベル賞候補と言われている。角谷は「入眠剤や睡眠薬を使わなくても、認知行動療法で脳の眠りの物質は引き出せる」と言う。
スーパーホテルの支配人たちの「睡眠改善プログラム」の具体事例について、次回から詳述していきたい。