ロシア軍がシリアからほぼ全面的に撤退せざるを得なくなり、中東における軍事的存在感をこれまでのように示せなくなるという点を別にしても、ロシアへの経済的打撃は甚大である。ロシア政府がシリアに行ってきた莫大な投資は、水の泡と消えたのだ。
ウラジーミル・プーチン大統領が2022年2月にウクライナ侵攻を開始した後、ロシア財政におけるエネルギー輸出への依存度はいっそう高まった。国際的な制裁はロシアエリート層の資産を直撃。ブルームバーグによれば侵攻開始から丸1年で、世界の富裕層上位500人に含まれるロシアの富豪23人が、侵攻前の純資産総額3390億ドル(現在のレートで約53兆円)の約20%に相当する670億ドル(同約10兆5000億円)を失った。
実は、こうしたオリガルヒ(新興財閥)と呼ばれる富豪たちは今年に入り、失った富の大部分を取り戻している。原油価格が1バレル=75ドル前後で安定し、市場が調整されたことが功を奏した。また、制裁下にもかかわらず欧州その他の地域へエネルギー輸出を継続できたことも追い風となった。その結果、ロシアの富豪上位10人の純資産総額は推計3600億ドル(約56兆3200億円)に増加した。
しかし、3年間に及ぶ消耗戦で累積した損害は、最近の地政学的な後退によって増幅され、ロシアが外部圧力に耐え続けるのをこれまで以上に難しくしている。
ロシアの国家財政赤字は膨れ上がっている。さらに、ウクライナは自国経由のパイプラインでロシア産天然ガスをオーストリアやハンガリーに供給する通過契約の更新を認めない可能性が高く、このまま年末に契約が期限を迎えれば、ロシアは年間最大65億ドル(約1兆円)の追加損失を被ることになる。
インフレ抑制に苦慮するロシア中央銀行は、すでに政策金利を21%という驚異的な水準にまで引き上げている。
国内では賃金が上昇しているが、それは働き手の多くが兵士として前線に送られたり戦争関連産業に従事したりして、労働力が不足しているからだ。生産性は低下しており、収益性も悪化している。これに伴い、戦争状態にある国家が何よりも必要としている税収も減少している。
プーチンに取れる選択肢は少なく、富裕層への増税を当てにする可能性が高い。すなわち、これまでプーチンを支えてきたオリガルヒたちは今後、今まで以上に大きな経済負担を求められることになる。