過去2年間で幾人かの著名なロシア人富豪が国籍を放棄し、ロシア経済界から撤退した。今年に入ってからは、ロシア柔道連盟の前会長で不動産開発などで財を成した実業家ワシリー・アニシモフがロシア旅券を返納し、経営権を握っていた企業の株を手放した。
2023年には、ロシアで最も著名なテック企業ヤンデックスの創業者アルカディ・ボロズが「ウクライナ侵攻は野蛮だ」と公然と批判。ロシアと決別し、今後は「カザフスタン生まれのイスラエル人テック起業家」と名乗ると表明した。
ボロズは欧州連合(EU)の制裁リストから除外され、その後、ヤンデックスの国際資産を利用してネビウス・グループを設立した。この新興ベンチャーは現在、時価総額世界1位の米半導体大手エヌビディアをはじめとする投資家の支援を受け、米国で数億ドルの資金を調達している。
直近の離反者は、ロシア最大級の民間銀行を中核に保険、農業、不動産、製薬など多角的な事業を展開する複合企業体ロシウム・グループを統括していたロマン・アブデーエフである。アブデーエフはフェイスブックへの投稿で、ロシア国内に保有する全資産を、2019年に戦略的提携関係を結んだロシア人富豪セルギー・スダリコフに売却したと公表。養子19人を含む23人の子どもたちと一緒に撮った写真を添えて、今後はビジネスよりも家族に集中したいと述べた。
今なおロシアに残る富豪たちの命運は、ドナルド・トランプ米次期大統領が握っているといえるかもしれない。
ロシアのエネルギー輸出は11月時点ですでに日量10万バレルの減少となっており、これは11億ドル(約1700億円)の歳入減をもたらす。もしもトランプがロシア産原油の価格上限をさらに引き下げたり、西側の制裁をかいくぐって原油を輸出している「影のタンカー船団」を取り締まったりして、欧州諸国にエネルギーのロシア依存を完全に断つよう圧力を強めれば、日量10億バレルのロシア産原油が市場からほぼ完全に排除されるだろう。市場は再び調整されるが、世界のエネルギー供給は制約を受けることになると識者はみている。
したがって、第2次トランプ政権の初期のエネルギー政策決定こそが、特にロシア周りで2025年の世界を動かす主要因となり得る。トランプがロシア産エネルギーへの締め付けを強化するならば、プーチンとオリガルヒの間には亀裂が生じるだろう。プーチンに対する圧力は著しく高まっている。そこへさらにオリガルヒという身近な存在からも圧力が加われば、プーチンは自らの支配の継続を脅かす難局を打開するため、非常に巧妙な動きを余儀なくされるだろう。
(forbes.com原文)