トランプ、マスク、アイザックマンという3名の布陣が整ったことで、予算不足の状態にあるNASAと、予算超過に歯止めが掛からない大型ロケットSLS(スペースローンチシステム)への対処に注目が集まる。前例に囚われない彼らが采配を振い、現在進行しているプロジェクトの予算を大幅にカットすれば、さまざまな抵抗勢力と戦うことになる。
NASA職員530人が解雇
NASAの慢性的な予算超過は、長年にわたって問題視されてきた。NASAはワシントンD.C.にある本部のもと、10カ所の主要フィールドセンターを持ち、その傘下にある施設は全155に及ぶ。アポロ計画の1960年代、またはそれ以前に建てられた施設の多くは老朽化が進み、その維持費は増加傾向にある。NASAの運営を監視するNASA監察総監室(OGI)は、その約20%が十分に稼働していないことを2013年に指摘。ただし、これらの施設や組織を縮小または閉鎖しようとすれば、既得権益を持つ団体や、雇用を守ろうとする議会がその動きを阻もうとするため、長年にわたりその処置は保留されたままの状態にある。
NASAは2025年度(2024年10月~)の予算として254億ドル(約3兆8100億円、1ドル150円換算、以下同)を獲得。それは前年度から2%増加しているが、増加する施設維持費や国内インフレなどによって、同予算では現状を維持できない。
その結果、2024年2月、NASAの一機関であるJPL(ジェット推進研究所)の、 全職員の8%にあたる530人を解雇。さらに11月12日には職員325人を解雇している。これは主にMRS計画に関わるスタッフだと言われている。
MRSとは、火星探査ローバー「パーサヴィアランス」が採集した火星サンプルを地球へ持ち帰る計画。回収機などの打ち上げが2027年に予定されていたが、その予算は前年度から見通しが立たない状態にある。2024年6月には請負事業者の再選定が行われ、現在はプランが再検証されている。
また3月には、X線望遠鏡チャンドラの予算6830万ドル(約102億円)を40%カットすることが発表された。これは同機の運用が早期に停止されることを意味する。さらに7月には、月面探査車バイパーの計画中止が急遽決定。月面で「水の氷」を探すための同車両はすでに完成し、1年後の打ち上げに向けて試験段階だったが、他のミッションを優先する必要性から中止が決定された。
こうした状況のなか、いまもっとも注目されているのが、アルテミス計画で使用される大型ロケット「SLS」の扱いだ。