そこでは、出店過多で「踊り場」を迎えたかに見える東京のガチ中華の裏事情と店の経営者たちも在日同胞だけを顧客とする商売を転換していかなければならないと考え始めていることを紹介した。
さらに、これからの1つの方向性として国内のムスリムの人たちやインバウンドの客も集客の対象とする、中国の「ハラール中華(清真菜)」の店が増えていることなどについても触れた。
そして、今年もガチ中華を取り巻く状況のなかではさまざまな出来事があった。それらを振り返りつつ、2025年のガチ中華の行方について、筆者の考えを述べてみたい。
居酒屋やラーメン屋への切り替えも
最初に、1人の若きガチ中華のインフルエンサー、ハンドルネーム「阿生(アーシェン)」さんを紹介したい。彼は日本人だが、2010年代半ばに上海に留学し、いまでいうガチ中華を現地で知った。帰国後日本で就職したが、2018年頃からガチ中華を紹介するブログ「東京で中華を食らう」やXでの情報発信を始めている。2020年に始まったコロナ禍を機に、東京のガチ中華の世界に分け入り始めた筆者よりも、阿生さんのアプローチは早かった。実を言うと、彼はちょうど筆者の息子と同じ年頃の20代の青年で、食欲も旺盛、フットワークも軽く、頼もしい若者が現れたものだとうれしかった。新しくオープンするガチ中華の情報は、彼から教えてもらったものも多い。
その阿生さんは「36KrJapan」という中国発のテック・スタートアップメディアに、「ガチ中華ブーム、いよいよ『消耗戦』へ。日本店舗との競争激化、資金力勝負に」(2024年11月30日)という以下のような記事を書いている。
〈2024年も東京・上野、池袋、新宿ではガチ中華出店がまだまだ活発だ。一方で「神田、新橋、田町などで居酒屋やラーメン屋を出店する店も多いです。中華は競争が厳しいので日本人向けの店に切り替えているケースもある」(ある在日中国人のコメント)という〉
なぜそのようなことが起きているのかについて、彼はこう説明している。
〈中国では競争が激しすぎて消耗戦に陥る「内卷」という言葉が流行語になっているが、同じような状況が日本の中国人社会でも起きているのだ〉
内卷(ネイジュアン)というのは、中国人の商売を見ているとよくあることだが、誰かが商機をつかみ、商品をヒットさせたり、新メニューが人気を呼んだりすると、すかさず多くの人たちが類似した商品や同じメニューを、たいていはより安価に提供することで、不毛な価格競争が起こり、市場全体が疲弊し、共倒れが起きるという現象である。
こうしたことから、一部のガチ中華のオーナーたちは「居酒屋やラーメン屋を出店」するなど、日本人向け商売に切り替えていると阿生さんは指摘する。これは、本場の味を目指すガチ中華化とは真逆の動きと言えるだろう。