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2024.12.25 20:00

自分や素材との対話で生まれる“気付き”が革新をつくる MUFGが工芸支援に見る可能性

三菱UFJフィナンシャル・グループ(以下、MUFG)は2023年度より、社会貢献活動の優先領域のひとつ「文化の保全と伝承」の中核を成す活動として「MUFG工芸プロジェクト」を発足し、さまざまな取り組みを行っている。

今回は、24年10月にローンチした「KOGEI ARTISTS LEAGUE」について、MUFG 代表執行役常務 グループCSO 髙瀬英明、プロジェクトの総合監修を務める東京藝術大学名誉教授 秋元雄史、「KOGEI ARTISTS LEAGUE」でサポーターを務める金沢美術工芸大学 准教授 青木千絵に、プロジェクトの概要から企業が工芸支援に取り組む意義について話を聞いた。


革新の源泉は直感に宿る

――プロジェクト発足後、MUFGは巡回展「持続可能な未来のために-工芸の伝統と革新」を開催されました。まずはその反響について教えてください。

髙瀬:東京を皮切りに、京都、金沢、大阪、名古屋、海外はパリやNYと巡りましたが、各地での反響の大きさに驚いているというのが率直な感想です。来場者の皆様だけでなく社員からも「工芸のことをもっと知りたい」「工芸品を生活に取り入れたい」「自分でもつくってみたい」という声が挙がったのも印象的でした。ご来場者のなかには実際に作家の工房に行ってみたという人もおられ、ポジティブな反応を得ることができたと思っています。工芸支援を目的とした私たちの取り組みに賛同する企業様からのお声掛けも多く、これから一緒に何ができるか、議論を進めているところです。

――23年に続き、「Forbes JAPAN 30 UNDER 30 2024」でも3名の作家がMUFG特別賞を受賞しました。受賞者の作品について印象を伺えますか。

作家:家長 百加 タイトル:Transform series「光を扇ぐ」 素材:絹糸、オーガンジー、鉄ワイヤー、和紙、木 サイズ:H150 W240 D100 (mm)

作家:家長 百加 タイトル:Transform series「光を扇ぐ」 素材:絹糸、オーガンジー、鉄ワイヤー、和紙、木 サイズ:W240 D100 H150(㎜)

作家:石渡 結 タイトル:内在する 1 素材:綿、竹、土 サイズ:700×500×600

作家:石渡 結 タイトル:内在する 1 素材:綿、竹、土 サイズ:W700 D500 H600(㎜)

作家:野田 怜眞 タイトル:乾漆曲輪茶碗[赤呂](左)/[暗赤](右) 素材:[赤呂]漆、麻布、金(赤呂)/[暗赤]漆、麻布 サイズ:各H90 W120 D120 (mm)

作家:野田 怜眞 タイトル:乾漆曲輪茶碗[赤呂](左)/[暗赤](右) 素材:[赤呂]漆、麻布、金(赤呂)/[暗赤]漆、麻布 サイズ:[赤呂]W120 D120 H100/[暗赤]W120 D120 H90(㎜)

髙瀬:自由な表現で新しい工芸の在り方を創造する姿勢に深い感銘を覚えました。伝統を大切にしながらも、固定観念にとらわれない発想を取り入れていくことは、ビジネスにおいても学ぶことが多いですね。変化の激しい時代、私たちも従来のビジネスモデルを守るだけでなく、新しいことに挑戦する必要があると感じました。

秋元:アートとして独創的な表現方法が用いられていることや時代性をとらえていることはもちろん、いずれも工芸ならではの魅力を兼ね備えている印象が強いですね。漆、刺繍、織物といったこれまで培われてきた伝統技法と向き合い、各工芸の伝統的な表現を超えた革新性が感じられます。特に刺繍作家の家長さんの作品には驚きました。刺繍はこれまで手芸、いわゆる趣味の領域というイメージをもたれる方が多いジャンルだった。ですが彼女は刺繍を作品として昇華させ、説得力のある作品に仕上げている。刺繍はこれから新たなトレンドになるのではと期待しています。

青木:秋元先生がおっしゃるとおり、家長さんは従来の日本刺繍の魅力を備えながらも、これまでの概念を超えた立体的な刺繍作品を生み出しています。また染織の石渡さんは布を繊維と繊維によって構築される立体物としてとらえ、空間と素材との対話を試みています。これは織物を新たな視点でとらえ直す挑戦だと感じました。漆芸の野田さんは、漆芸の精緻な表面をあえて制作過程の痕跡とともに提示することで、作品に物語性と深みを与えています。

それぞれが素材や技法とじっくり向き合うなかで生まれる一瞬の気付きや発見が、革新的な作品の創出につながっていることがよく分かります。いずれも、独自の視点で素材や技法を深く解釈することで新たな価値を引き出し、革新的な作品を生み出していると感じます。

漆彫刻家/金沢美術工芸大学 准教授 青木千絵

漆彫刻家/金沢美術工芸大学 准教授 青木千絵

――気付きやひらめきをかたちにする。これはビジネスへのヒントにもなりそうですね。

秋元:作家やアーティストは周りからネガティブな意見をぶつけられても、己の表現に対する軸をもっている。この軸とは「自分自身が抱えている課題」なんですよね。どうしようもない不安や怒りを自分なりに表現し、それを貫くことで作品を生み出している。仕事においても、軸をもって、自分事として向き合えるかどうかが重要なのではないでしょうか。

髙瀬:組織としては、失敗を恐れずにチャレンジできる環境をいかにつくるかが大切ですね。我々も、企業カルチャー改革の一環で、責任と権限を柔軟に与えるアジャイルな組織運営を取り入れようとしています。直感は正しいときもあれば間違ってしまうときもあって、それは試してみないと分からない。あとはどこまで自分事化してプロジェクトを進められるかが、ビジネスになるかどうかにつながっていくと思います。

青木:私自身も、“漆を用いることで人間の内面的な描写ができるのではないか”という気付きが制作の原点になっています。しかし、過去には「漆じゃなくてもいいのでは」「奇を衒っているだけでは」といわれることもありました。それでも自分を信じて作り続けた結果、やりたかったことが少しずつ明確になり、作品が自立し始めたのだと思います。私の場合は、伝統を踏まえつつも自由にものづくりができる金沢美大の環境に支えられたことも大きかったです。

金融の“つなぐ”チカラで工芸のエコサイクルを構築

――作家、そして教育者として工芸に携わる青木さんは、現在の工芸を取り巻く環境にどのような課題があると感じていますか。

青木:職人の後継者不足の影響で、制作に必要な道具や材料の確保が年々厳しくなっていることは大きな課題です。漆芸でいえば、良質な刃物をつくる鍛冶屋や研ぎ炭を作る職人の減少が深刻です。この課題は、私たち作家も一緒になって改善策を講じていく必要があると感じています。

秋元:金銭的な面も含めて、道具や材料を供給する仕事が働く人にとって魅力的なものにする。そのためにはマーケットの成長が求められるでしょうね。

髙瀬:まさにそこが、我々が行う工芸プロジェクトの最終的な目標です。本プロジェクトを通じて、作品を世に知ってもらう機会や販売する場所が少ないという課題があることを実感し、まずは巡回展の開催により多くの方が作品に触れる機会を設けました。そして次のステップとして24年10月にローンチした「KOGEI ARTISTS LEAGUE」では、実際に作品を展示販売できる場を設けています。作品に光が当たり、適正な価格で販売できるようになれば、作家はもちろん、その活動を支えている人たちも豊かになる。さらに、その挑戦姿勢をほかのつくり手の模範としてもらえるよう見える化し、後に続くつくり手を増やす。こうしたエコサイクルを構築していきたいと考えています。
MUFG 代表執行役常務 グループCSO 髙瀬英明

MUFG 代表執行役常務 グループCSO 髙瀬英明

――「KOGEI ARTISTS LEAGUE」についてお聞かせください。

髙瀬:「KOGEI ARTISTS LEAGUE」は、次世代を担う若手作家の交流・学びの場と、作品を展示し、販売できる場を提供するものです。具体的には、青木先生のような第一線で活躍する先輩作家に、サポーターとして参加してもらい、応募者にアドバイスをいただき、作品を評価していただく。そして8月に作品の展示・販売をする機会を設けます。

秋元:参加する若手作家には、自分のすべてを投じて制作した作品が社会でどう受け止められるのかを実感してもらいたい。それが総合監修者としての想いです。このプロジェクトは、作品の評価だけではなく、同世代の仲間やサポーターを務める先輩たちとの交流や情報交換の場にもなっています。多くの人々との出会いを通じて、作家としてどう生きていくかを探ってほしいと思っています。

東京藝術大学名誉教授 秋元雄史

東京藝術大学名誉教授 秋元雄史

青木:「KOGEI ARTISTS LEAGUE」の意義は大きいと感じています。制作を続けていくためには、人前に作品を出し、多くのフィードバックや批評を受けることで、社会のなかで自分の存在を確立していくことが大切です。この取り組みが、次世代の工芸界を担う若手たちが、自信をもって一歩を踏み出せるきっかけになればと思います。とはいえ、私自身もまだ作家として試行錯誤を続けている立場です。若手作家の方々とは、ライバルとしてお互いに刺激を与え合う関係でありたいですね。

――最後に、今後の展望についてお聞かせください。

青木:作家であり、教育の場にも身を置く立場として、表現や技術面だけでなく、工芸産地や工芸という市場への理解を深めるような要素を教育に取り入れて学生たちに伝えていきたいと思っています。工芸作家と工芸産業が相乗効果を生むことが活性化へとつながり、生きた文化として工芸が次世代へと受け継がれていくのではないかと考えています。

秋元:おもしろいもので、工芸を知れば地方の魅力を再発見できるという側面があるんですよね。同じ焼き物でも地方によって使う素材や焼き方が異なる。こういった個性に興味をもつ人が増えれば、地方も活気づくのではと思っています。工芸が注目されると日本の文化を世界に発信していくことにもつながる。こうした好循環を期待しています。

髙瀬:秋元先生と青木先生のお話を伺い、金融のもつさまざまなものを“つなぐ”チカラが、工芸界の発展に寄与できる可能性を改めて感じました。遠隔地をつなぐ資金決済、ファイナンスを必要とする事業者と投資家をつなぐ仲介、事業を次世代につなぐ承継など、金融サービスは人や資産を“つなぐ”機能を備えています。工芸の世界でもつくり手と使い手をつなぐ、技術と技術をつなぐといったことが必要です。MUFGの国内外につながるネットワークであらゆるモノとコトをつなぎ、世界が進むチカラになれるよう、これからも挑戦を続けていきたいと考えています。


あきもと・ゆうじ◎東京藝術大学名誉教授。東京藝術大学卒業後、1991年に福武書店(現ベネッセコーポレーション)に入社。「ベネッセアートサイト直島」として知られるアートプロジェクトの主担当となる。2004年より地中美術館館長/公益財団法人直島福武美術館財団常務理事に就任。退職後、07年より金沢21世紀美術館館長に就任。10年間務めたのち退職し、東京藝術大学美術館館長を経て現職。

あおき・ちえ◎漆彫刻家/金沢美術工芸大学 准教授。人間の存在をテーマに、等身大の身体と抽象形態を融合した漆作品を制作。主な展覧会に『ジャンルレス工芸』(国立工芸館、2022)、『六本木クロッシング2022展:往来オーライ!』(森美術館、2022)。作品は徳島県立美術館、ミネアポリス美術館、ヴィクトリア&アルバート博物館、金沢21世紀美術館、国立工芸館などに収蔵。

たかせ・ひであき◎三菱UFJフィナンシャル・グループ 代表執行役常務 グループCSO。1991年三菱銀行入行(現・三菱UFJ銀行)に入行。ロサンゼルス支店長、執行役員国際企画部長、執行役員経営企画部長(特命)、常務執行役員欧州副担当を歴任。2022年三菱UFJフィナンシャル・グループ執行役常務、グループCOO-I兼グローバルコマーシャルバンキング事業本部副本部長を経て、2023年より現職。

Promoted by MUFG / photographs by Kayo Takashima / text by Motoki Honma / edited by Aya Ohtou(CRAING)