デフレの力学も市場に信頼感をもたらしていない。物価は6四半期連続で下落しており、現四半期も下落が続くようであれば(その可能性は非常に高いと思われる)、1990年代後半のアジア金融危機時の中国の経済状況に並ぶ。
きわめて不確実性の高い2025年を迎えるにあたり、そうした状況を習は望んでいない。ドナルド・トランプ次期米大統領が仕掛けてくるであろう大規模な対中貿易戦争は、中国の国内総生産(GDP)と物価の急落を招くおそれがある。
このリスクこそ、中国人民銀行(中央銀行)が積極的な緩和姿勢に転換した理由である。2024年の大半の期間、人民銀行の潘功勝総裁は金利の引き下げに消極的だった。2008年の世界金融危機の際に人民銀行が行った大規模な景気刺激策、いわゆる「バズーカ」を放つことを明らかに避けてきた。
そのわけの一つは、中国共産党がバブルの再燃や、経済のデレバレッジ(債務圧縮)の進展を台無しにすることを嫌っているためだ。もう一つのわけは、急激な為替レートの下落が、多額のオフショア債務を抱える不動産開発企業のデフォルト(債務不履行)リスクを高めかねないためだ。
「トランプ2.0」(第2次トランプ政権)も要因の一つである。中国政府は、人民元の切り下げを図っているように見えることで、米国が中国製品にさらなる高関税を課す可能性を懸念している。
ロイター通信は先週、中国当局がデフレ対策として人民元安を容認することの是非を検討していると報じた。
人民元安により、不動産開発企業のオフショア債務の不履行リスクが高まることも懸念されている。しかし、トランプ次期政権の関係者も、貿易上の優位性を確保するためドル安政策に打って出る可能性を示唆している。こうした動きのすべてが重なって、世界経済がかつて経験したことのないような底値競争が為替相場で発生しかねない。
中国が信頼できる社会的セーフティーネットの立案プロセスを長引かせれば長引かせるほど、中国経済は国際的な地位を支える経済成長よりも、デフレを輸出する可能性が高くなる。
11月の輸入は前年同月比で3.9%減少し、これまでの景気刺激策が習指導部の期待したほどの効果を上げていないことを示唆している。短期的な景気刺激策よりも、構造的欠陥に焦点を当てた大局的な対策を講じるほうが、より大きな成功を導けるかもしれない。
ここで、日本がかつて取った戦略が教訓となる。習指導部は、中国にとってより良い新たな戦略を立てるに当たり、世界の金融システムの力学をいつでも左右できるほど莫大な家計資産の活用に取り組むべきだ。そして、よりダイナミックで競争力のある中国経済の創出を支援すべきである。
(forbes.com原文)