例えば、バケーションでたくさんの忘れがたい興奮や楽しさに満ちた日々を過ごしたけれど、幕切れが後味の悪いものだった場合、全体として完璧とは言えない経験だった、と記憶される可能性がある。同じように恋愛関係においても、最も多幸感に包まれていっしょに過ごした時間と、破局の理由が、関係の全体的な印象を決定づけることがある。
初めてパートナーがあなたに愛を告白してくれた瞬間や、何もかもが完璧に思えた魔法のようなデートは、記憶に深く刻まれる。このような「感情のハイライト」は、恋愛関係の重要指標として機能する。けれどもその後、解決できなかった対立や裏切り、心の傷で関係が終わりを迎えた場合、痛みを伴った最後の瞬間が、ポジティブな思い出を上書きする。その結果、本当は、幸福で意義深いたくさんの時間をいっしょに過ごしたにもかかわらず、関係が一貫して充実していなかったように感じられる可能性がある。
ピークとエンドは強い影響力をもつために、時に全体像を歪める可能性がある。ピークとエンドは必ずしも、関係の深さを反映するとは限らない。静かで安定した長い時間にも、同じくらい価値があるはずだが、感情の強度ではピークとエンドに及ばないのだ。
こうした「ピーク・エンドの法則」が恋愛関係に与える影響を以下に3つ紹介しよう。
1. 記憶の誇張や改変
胸踊るような「記念日の旅行」が、恋愛関係のハイライトとして体験されたものの、最終的には関係が刺々しい会話で終わってしまった場合、あなたの記憶は、その辛い結末を強調して、いっしょに過ごした間に存在していた感情面での深いつながりを無視してしまう場合がある。このような傾向は、研究からも明らかになっている。出来事の推移が、予想された構造から逸脱している場合、私たちの記憶はそれらを改変して、合理的かつ予測可能な点で終わりを迎えたかのように想起するのだ。
2023年に学術誌『Journal of Experimental Psychology』に掲載された論文によれば、このような想起は2つの形で起こり得る。
・重要な瞬間の直前に邪魔が入った場合、欠落したディテールを埋める
・シーン転換の後に邪魔が入った場合、重要なディテールを省略する
どちらの場合も、記憶は出来事の順序を歪め、典型的な出来事の推移構造に合致するものを強調する。そのせいで、変化に富んでいた体験の全体は反映されない。