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食&酒

2025.01.19 14:15

神戸のスペイン料理「カセント」 三つ星の苦悩を超えた境地

神戸・三宮にあるレストラン Cà sento

しかもそれが続いたのが1年や2年のことではない。兵庫県がミシュランの対象から抜けて8年になるが、ようやく最近になって、本当の意味で、辛い状態から抜け出したという。

「その間、ただひたすらに、それまで以上に毎日をやりきることで、見えないものを探し続けてきました。そうすることで、本当に少しずつでしたが、自分のやっていることに確信のようなものが持ててきたのです。今はもう、後ろを向くことはありません。おいしい料理をつくることだけを考えています」

そう思えたのには、生産者とのつながりも大きかったという。自分の料理がどんどんシンプルな方向へいくなかで、素材の重要性は増すばかりだ。休みの日には産地に顔を出し、無理でも電話で細かな打合せを入れ、敬意を表しつつ、ときに、応援のメッセージとエールを送ってきた。

「夢や目標は持たない」

福本氏は厨房はコックピットだととらえている。料理はチームワークなくしてできない。それはアドゥリス氏のさらに師匠である「エル・ブジ」の厨房で学んだことだ。一糸乱れぬ隊列を組み、皆、ゴールへ向いて、自分に必要とされることを効率よくこなしていく。

現在厨房は、福本氏を除いて4人。「仲良くやっているだけではダメ、皆が同じ方向を向いて一つにならなければ、F1の車を走らせることはできません。タイヤ交換も、給油も、機器の点検も、正確で迅速でなければならない。その圧倒的な総合力があってこそ、出せる料理、出せる美味しさがあるのです」。

ではシェフはドライバーですか? と聞くと「全員がドライバー」と言う。全員が走れる技術を持っていなければいけないのである。その意味では、個人個人にアスリート並みの瞬発力、筋力、フォーメーションを組む頭脳を求められる。

クリエーションは、突然おりてくるのだという。「毎日、自転車通勤しているのですが、神戸は海も山も近く、目に入る海の景色、雲の形、木々の色合いなどから季節が体感できるんです。自然と、この素材とこれを合わせてみると楽しいかもしれない、と可能性に気づいたりするんです」と笑う。その一つ一つの小さなねたを忘れないために、厨房についたらすぐに書き留めている。

料理をするときに一番大切にしていることは、「全力で自分に向き合うこと、スタッフに向き合うこと」に加え、「家族を大切にすること」だという。この優しさこそが、厳しくストイックなコックピットから生まれる料理に、深い愛情となってプラスされているのであろう。

「夢や目標は持たないようにしています。朝起きたときに、また1日頑張ろう、夜寝るときに、その日の反省と修正点を考える毎日を送りたいですね。でも、いつかその電池が切れるときがくる、その恐怖と戦っているというのが正直なところです。60になっても80になっても今のそのやる気のままに過ごしていきたい。それしか自分にできることはないと思っています」

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