そのトランプを支持しているのも国民であり、彼は歴史が生み出した「トリックスター」とも言える。そんな予測不能な「ディール外交」でどのような言動をとるのか、国際社会に緊張感を与えている。
「打つ手がない」日本
特に警戒が高まるのは関税政策だ。トランプはSNSの投稿で「1月20日の就任式直後に、メキシコとカナダからの輸入に25%、中国からの輸入に10%の追加関税を課す」と表明。大統領権限で議会の修正なしに実行可能であることからも、2025年の早い段階で関税政策を展開する可能性が高い。第一生命経済研究所経済調査部の熊野英生首席エコノミストは、「メキシコを生産拠点にしている自動車産業や、中国に工場をもつ製造業など日本企業が打撃を受けることで、日本の賃上げ率が足りなくなる恐れもある。企業業績に悪影響が出ると、3月春闘の交渉にも暗い影を落とす」と危惧する。
さらに、対中関税が引き上げられ、中国が対抗措置として報復関税に踏み切った場合、米中両国との貿易に依存する日本にとって極めて厳しい局面を迎えることになる。「諸外国への追加関税による影響に関しては、短期的には日本に打つ手がない。日本国内で生産していても物価高によって苦しい時期が続くだろう。そうなると企業が強くないと耐えられない」(熊野)
在米企業にとっても影響は大きい。みずほリサーチ&テクノロジーズの酒井才介チーフ日本経済エコノミストは、「米企業全体の海外調達比率は1割未満にとどまる一方、在米日本企業の海外調達率は約5割と高く、在米日本企業は関税引き上げに伴う悪影響が大きく出る」と予想。そのため、トランプ減税の延長を含む大胆な税制改革が行われたとしても、「1パーセントでも関税をあげると減税の効果が帳消しになる」という。
「法人税が現行の21%から15%にまで引き下げられたとすると、約2.5兆円の増益につながる。しかし、対中関税が現行の20%から60%に引き上げられれば、4兆円収益が減少する。普遍関税の現行3%から10%まで引き上げられると、20兆円以上のダメージとなり、在米日本企業にとって減税の恩恵は関税引き上げで吹き飛んでしまう」
(酒井)
こうした関税の引き上げやトランプ減税の延長、移民排斥など、アメリカ国内の需給を逼迫させて、インフレを助長するような政策が並ぶ。そうなると結果的にドル高、円安の傾向が続くとみられ、酒井は「物価高による個人消費の下押しや、内需に依存する中小企業にとっては原材料費の高騰によるコスト増など、円安のネガティブな影響のほうが出やすい」とみている。