マスク以外のテック業界の実力者としては、長年民主党支持者だったもののトランプ支持に転じたベンチャーキャピタリストのマーク・アンドリーセンがいる。彼は選挙当夜、(マスクやホワイトらとともに)マール・ア・ラーゴに招待された。また、TikTokを運営するバイトダンスの大株主であるジェフ・ヤスは、トランプにTikTok禁止の方針を撤回させたとも言われている。
しかし、こうした新参者たちには、トランプの家族や長年の支持者たちとの競争にも直面することになる。トランプ自身は家族は政権に関わらないと話しているが、義理の息子であるジャレッド・クシュナーは非公式に助言を続ける意向を示している。義理の娘のララ・トランプは共和党全国委員会の共同議長として重要な役割を担っている。
さらに、ウォール街のレジェンドである投資家のカール・アイカーン、ラスベガスのビジネスパートナーであるフィル・ラフィン、元マーベルCEOのアイザック・パルムッターなど長年トランプを支持してきた億万長者たちも、引き続き政権に影響を与えるとみられている。
共和党の手堅い人事から挑戦的な人事まで新政権の発足に向けて周到に準備を進めるトランプ。
米州住友商事ワシントン事務所の渡辺亮司調査部長は「1期目で政権移行に時間がかかったことを反省し、今回は政権発足直後からすぐに選挙公約の実行に移るだろう。米国人の過半数がトランプによる政権移行の対応を支持していることが世論調査でわかっており、公約実行を後押しするような政治基盤が整いつつある」と指摘する。「ディールメーカーとして、その場で対応を変えることも考えられる。そんなその場しのぎの突飛な政策を今回の人事の面々はどのように対応していくのか。というのも注目ポイントだ」(渡辺)
事実を作りだす予測不可な男
Forbes誌とトランプはこれまで、米国の富豪400人を保有資産額で順位付けする「フォーブス400」の報道をめぐり、長年衝突してきた。トランプは「君らの評価額は実際の資産額よりずっと下だ」と自らの資産額を過大申告してきたのだ。リストからの除外や評価額の減額を要求してくる富豪はいたが、トランプほど評価額へのこだわりを見せたものはいない。
体面を傷つけられることを嫌うトランプは、1984年にロサンゼルス・タイムズ紙に、Forbesが「故意に誤った記事」を書いたと寄稿。しかし25年後、謝罪するのが何より嫌いなトランプも、事実を誇張していたと認めている。過大な資産額の申告など自身の主張を何度も繰り返すことで、あたかも「事実」であるかのようにしていく。