ディズニーが日本に多大な投資をするワケ
「今こそアジア太平洋地域(APAC)に注力する絶好のタイミングだと思っている。私が今ここ(シンガポール)にいるのがその証拠です」
日本を含むアジア地域では、制作パートナーやクリエイターなどのコミュニティが発展していて、安定したヒット作が次々と生まれている。今まで誰も見たことのない新しいストーリーテリングのかたちは、こうした「新鮮なクリエイティブコミュニティ」から生まれる可能性が高いと彼女は言う。
「ディズニーにとって、日本発の『ガンニバル』や『東京リベンジャーズ』などのドラマやアニメは動画配信サービス向けの優れたジャンルになっているし、韓国発のドラマ『ムービング』も、世界中を席巻する大ヒットを記録しました。私たちが、日本を含むAPAC地域で進められているプロジェクトに対して積極的なのはそのためです。ここから生み出される作品が、多くの視聴者に新しい感動を届けられると確信しています」
では、日本のコンテンツの魅力についてはどうか。
「番組の制作価値は非常に高く、俳優たちの演技の才能も素晴らしい。ヒット番組を生み出す要素はどの国でも共通しているが、日本の作品には類を見ない独自性がある。日本のクリエイティブコミュニティはこうした期待に応える力を秘めており、今後もますます注目を集めるでしょう。特にアニメのIPは世界でいちばんだと思う。そのIPを手に入れるために、われわれは日本に大きな投資をしています」
もちろん課題もある。それは「競争が激しいこと」だ。ディズニーが地域発の独自コンテンツ強化を始めたのは、約3年前の2021年秋頃からのこと。さらに日本はテレビ局などを含め、新旧さまざまなプラットフォーマーによる独自のエコシステムが強固にある。
ウォルデンは100年以上のストーリーテリングの歴史がある会社の共同チェアマンとして、「米国や他の市場でもそうしたように、ディズニーこそが優れたパートナーになれるという姿勢を、時間をかけて示していく」という。そのためには、「クリエイターがつくりたいもの(vision)を、最も純粋かつ最良のかたちで実現できるようにサポートしていくことが重要」となる。
「私たちは、決して『最多』の番組をつくるつもりはない。目指すのは『最高』の番組をつくること。『SHOGUN 将軍』のようにすべての作品に10年も費やすことはできないが、それでもクオリティ重視のアプローチが成功の鍵だと信じている」
さらにこう続ける。
「『真のヒット作』とは、最初からできるだけ多くの人々、多くの観客をターゲットにしたものである必要はない。むしろ少なく狭く限定された人たちに向けたものであっていい。それが最高のクオリティで実現できれば、ニッチな作品でも大ヒット作に変わる可能性があるから」